「学生時代に力を入れたこと(略称:ガクチカ)」は就活でほぼ必ず訊かれる質問ですが、自分にはガクチカがない、語れるような強いエピソードがないと悩む就活生は多いでしょう。しかしキャリアコンサルタントの森田昇氏は、ガクチカを答えるうえで「原体験」や「苦労話」は不要だといいます。ガクチカがない人でも内定率を大きく上げる答え方とは? 森田昇氏の著書『生涯収入を最大化する「就活の技法」』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、見ていきましょう。
採用担当「学生時代に力を入れたことは?」…“ガクチカがない普通の就活生”の内定率を大きく上げる回答【キャリアコンサルタントが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

ガクチカは大したことじゃなくていい

本稿ではES3点セットの1つ、「ガクチカ」について具体的に解説していきます。ガクチカとは、学生時代に力を入れたことの略称で、過去のエピソードです。面接でも必ずといっていいほど訊かれる質問です。

 

就活生の皆さんの大多数がこう悩んでいると思います、「普通の大学生活しか送ってないから、強調できることは何もなく至って普通」。そんな普通の就活生の皆さん、安心してください。それで大丈夫です。普通に【図表】の構成に従って書きましょう。

 

出所:森田昇著『生涯収入を最大化する「就活の技法」』(日本能率協会マネジメントセンター)
【図表】ES3点セットの関係性 出所:森田昇著『生涯収入を最大化する「就活の技法」』(日本能率協会マネジメントセンター)

 

自分では大したことないと思うようなガクチカでも、一般的なガクチカでも、普通のガクチカでも、大手企業から内定を獲得できる就活生が大勢います。誰もが経験したことのない珍しい体験や、輝かしい実績、飛びぬけた成果を持っている就活生は100人に1人もいません。それも企業側がそれらを求めているのかと言われれば、そうでもありません。

 

どんなに素晴らしい経歴や実績や数字を持っているか、の勝負ではないのが就活、そしてガクチカです。頑張ったと自覚していないことでも十分書けますし、戦えます。

企業側に「入社後も成長し続けられるか」が伝われば、お題や中身は何でもいい

就活生の先輩が何をガクチカとしてESや面接時に使ったのかといえば、アルバイトが半数を占めています(株式会社マイナビ「マイナビバイトTIMES」「就活を終えた大学生がガクチカ(学生時代に力を入れたこと)で語った内容に関する調査」より)。サークルやゼミ、学業といった大学での活動を入れると8割以上を占めるので、一風変わった経験をガクチカにしている就活生は極少数なのがわかります。経験や体験で差別化しない、しなくてもいいのがガクチカです。

 

企業側も、経験や体験の中身で判断していません。ガクチカの大半はアルバイトですし、その内容もだいたい飲食店なので、とても差別化できるものじゃないですよね。

 

企業にとってガクチカとは、就活生が会社に入ってからも成長し続けられるか、という根拠にしているものです。伸びしろの確認ですね。

 

・経験から何を学び、どんな力を発揮できたのか。

・どのような困難や挫折にぶつかり、どのように乗り越えたのか。

・今後どのように活かしていくのか。

 

これらが採用担当者や面接官に伝われば、お題や内容は問われません。だから至って普通の経験や体験からで何ら問題ありません。

 

ガクチカは大学時代のことであれば何でもいいです。あまりに過去過ぎるものは大学生活で何をしていたのか? と採用担当者が訝るので、もし高校時代以前の話をするならば、必ず大学生活にどう役立ったのかと紐づけてください。「高校時代は野球部で甲子園出場を果たしました! が、燃え尽きて大学では何もしませんでした」では、せっかくの高校時代の実績が活きなくてもったいないですから。

 

「大学生活は遊んでばかりいたからガクチカがないんです」でも構いません。学生時代に力を入れたことが遊びだった、ならそれで勝負してもいいのです。就活生の先輩のおよそ1割は遊びや趣味でガクチカを作っていましたし、情熱を燃やしながら長期間遊べるのもれっきとした才能です。「勉強頑張りました!」や「ゼミや研究に力を入れていました!」といった大学名や学部名を見ればある程度わかってしまうガクチカよりも、ずっと印象に残りますから。

 

ただ、「〇〇という地下アイドルの推し活に熱中していた大学生活でした!」のように、採用担当者や面接官が知らない、理解が難しい内容を書いたり伝えたりするのは難易度が高いので、一般的に知られている用語を用いて、わかりやすい表現でガクチカにしましょう。それも単なるファン活動といった消費活動だけでなく、ファン活動を元にファンクラブを作った、コミュニティ運営に関わった、といった生産活動まで説明できると最高です。

ガクチカに苦労話や原体験は必要ない

ES3点セットの作り込み方の中で、大学時代の挫折や失敗経験、いわゆる苦労乗り越えエピソードを使用しよう、としていますが、ガクチカに無理に入れなくてもいいです。「頑張ったこと」、もしくは「力を入れたこと」、「こだわったこと」くらいで事足ります。「あなたの苦労話をしてください」、といった設問がESにあるならともかく、苦労乗り越えエピソードは「自分らしさ」を伝えやすいパターンの一つでしかないからです。とにかく明るく楽しいガクチカ、でも全然アリです。

 

この苦労乗り越えエピソードの拡大元ネタバージョンである、原体験(自分の価値観や思想に大きく影響を与えた、何らかの形で記憶の底に残り続ける幼少期や青年期の体験)まで自己分析してエピソードに入れることは、ハッキリ言って不要です。無理に探そうとしないでください。見つかりませんから。

 

原体験と接続しない「ガクチカ」や「自己PR」、「志望動機」は深みがないからダメ。説得力がない、差別化されない、だからお見送りになる。といった論調が一部であります。確かに、過去の強烈な原体験は就活のみならず、今後のキャリア形成においての原動力となり得るものです。著名な経営者の方のように、幼少時代の原体験が自らを推進するエネルギーとなることは往々にあります。しかし、そんな大それたトラウマレベルの原体験なんて、ほとんどの人は持っていません。私にはまったくありませんでした。

 

原体験を持っていないからダメだということは、当然ないです。そもそも過去は変えられないですし、原体験がないことに焦る必要もありません。ましてやそれを捏造して無理矢理過去のエピソードに加えることをしたら、矛盾だらけでガクチカどころかES全体が崩壊します。

 

「原体験作りをしよう!」、「原体験を織り交ぜて他の就活生に差をつけよう!」なんて言説には耳を貸さないでください。就活は体験の競い合いではありませんし、ましてや過去に囚われた者同士の戦いでもありません。未来のための、生涯収入最大化のための投資活動です。

 

無理に「原体験」を探す必要はなく、学生生活の日常や普通の生活から、ちょっとした気付きや学びといった体験を得ていたな、で十分です。それを拾い集めるうちに、自分が好きなことや向いていることがわかってきますし、ひょっとしたら原体験が積めるかもしれません。私はそうやって、社会人になってから原体験を積んできました。「私は原体験を持っているんです」という就活生の皆さんは、ぜひ就活のエネルギーに変換してくださいね。

内定率が大きくアップする3つのポイント

ガクチカの内容は、もちろん何でもOKなのですが、要素として次の3つが入るように考えてみてください。ガクチカの例文はネット検索すればたくさん出てきますし、一人ひとり違うのがガクチカなので、本稿ではあえて例文を紹介することはしません。それ以上に大切な、欠かせないチェックポイントと必敗法を示します。ちなみにこのポイントは自己PRも同様です。

 

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【ガクチカや自己PRで押さえるべきチェック3点】

・「論理思考力」が感じられるか。基本構成は論理的に破綻していないか。

・「言語化力」が高いか。採用担当者や面接官が知らない体験をわかりやすく説明しているか。

・「再現性」があるか。ガクチカで得られた「学び」や、発揮した「能力」を仕事でも発揮できそうか。

 

【ガクチカや自己PRで避けるべきチェック3点】

・盛ること(大げさにすると自分らしさが消える!)。

・嘘を積み重ねること(突っ込まれたら論理破綻するぞ!)。

・客観的視点がない(他人に読んでもらわないと矛盾に気付かない!)。

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ガクチカは自分を知ってもらうツールです。大切にするのはあくまでも自分らしさ。自分とは何者かを、自分の言葉で、等身大で、今できる精一杯で伝えるものです。下手に盛ると論理破綻を起こし、カバーしようとついた嘘は見破られ、お見送りになります。アルバイト等の平凡なエピソードでもいいので、押さえるべき3つが伝われば内定率が大きく上がります。

 

成果や実績は重要視されません。数値化できる成果や素晴らしい実績は、なくても構いません。現実的に、大企業志望でも平均倍率は25倍とのことですので、25人に1人は大企業から内定を獲得できます。仮に〇〇日本代表やXX世界大会優勝といった100人に1人の「成果・実績」モンスターと同じ志望企業でバッティングしても、100人に4人は受かりますので、あとの3人に入ればいいのです。それよりも伸びしろを感じさせる「再現性」が重要です。

 

ただ、この「再現性」については注意が必要です。得られた「学び」で結ぶのはどこか物足りない。だからガクチカで発揮された「能力」を「強み」に変換して最後にアピールしたい。自己PRにつなげたい。この考えはとても危険です。

 

「社会人になりましたら、『〇〇する姿勢』を発揮できるよう、日々の業務を通じて試行錯誤していきたいと考えています」、このようにガクチカは締めくくってください。その理由は次回記事の自己PRで解説します。

 

 

森田 昇(もりた のぼる)

キャリア開発・DX講師、ITベンチャー企業の外部人事部長

 

キャリアコンサルタント、中小企業診断士。一般社団法人リベラルコンサルティング協議会代表理事、日本能率協会マネジメントセンターパートナー・コンサルタント。

IT業界20年の経験と転職10回したつまずきを基に、キャリア開発・DXの研修講師として100社以上に研修を実施、再就職支援セミナーをハローワークで100回超開催。キャリアコンサルタントとして学生含めて約2,000人の転職と再就職・就活支援を行う。またITベンチャー企業の外部人事部長として新卒・中途採用に携わる。

著書に『売れる!スモールビジネスの成功戦略』(明日香出版社、2020年)、『年収300万円から脱出する「転職の技法」』『生涯収入を最大化する「就活の技法」』(どちらも日本能率協会マネジメントセンター)がある。