(※写真はイメージです/PIXTA)

日本居住者が得る所得には、所得税と住民税で最高55%という高い税金がかかります。しかも、日本で得た所得に対して課税されるだけでなく、海外の株式から得た配当など、日本国外の所得に対しても課税されてしまいます。しかし、日本非居住になれば、この高い所得税から解放されます。どうすれば「日本非居住」になれるのか、見ていきましょう。※本記事は、OWL Investmentsのマネージング・ディレクターの小峰孝史弁護士が監修、OWL Investmentsが執筆・編集したものです。

非居住者となるための「4要素」を深堀りする

法律の引用による説明では少々わかりにくいですから、これまでの裁判所の判断をもとに、具体的なポイントを見てみましょう。

 

①住居

◆海外の住居

 

海外でコンドミニアムに住んでいる場合は「住所」としても問題ないですが、ホテルの一室に住んでいる場合は「住所」とはいいにくいです。

 

また、サービスアパートメントという、まとまった期間で契約して滞在するものの、清掃やリネン交換などのサービスも付けられる、ホテルとコンドミニアムの中間的な形態に住んでいる場合は微妙です。

 

この点は、いわゆる「武富士事件」(最高裁判所平成23年2月18日判決)でも問題になりました。この事件をご存じない方のために概要を申し上げると、かつて日本最大の消費者金融の会社だった武富士の創業者の長男が、香港に所在を移すことで莫大な贈与税の回避を試みたとして、国と創業者の長男が贈与税の課税の是非を巡って争いました。「居住・非居住」に関する事件として最も有名な案件です。

 

結果的に「香港居住=日本非居住」ということで確定したため、「サービスアパートメントに住んでいても住所といい得る」という結論にはなりましたが、「生活の本拠」ではないという批判を受ける余地がありますから、できれば避けたほうが無難でしょう。

 

◆日本の住居

 

日本に居住用の住居を残していると、そこが住所だと認定される恐れが高まります。賃借している家があれるなら解約する、所有している家があるなら売却するか、だれかに貸すことが望ましいといえます。

 

②職業

日本の会社で役職員に就いていれば日本に住所があるといわれやすく、海外の会社で役職員に就いていれば海外に住所があるといわれやすくなります。日本の会社と海外の会社の両方で役職員に就いている場合は、どちらの役職の重要性が高かったかが論じられます。

 

上記の点から「では、リタイヤ移住をして無職の場合、〈日本非居住〉に該当しないのでは?」と心配になる方もいるでしょう。

 

この点、もし裁判所で争われたとしても「リタイヤ移住=〈日本非居住〉とはいえない」と判断されることはないでしょう。とはいえ「海外で仕事がある」という形にしておくほうが、「海外に住所がある=日本非居住」と判断されやすいといえます。

 

③国内において生計を一にする配偶者その他親族を有するか否か

日本国内に配偶者や子どもを残して海外移住する場合、日本の家を「住所」と認定されてしまう可能性が高まる、といわれています。

 

ただし、「生計を一にする」という言葉が入っている点に注目です。海外移住をする人が、日本に残る配偶者・子どもの生活費を賄っている場合は、日本に住所があるといわれる危険が高いのですが、一方で、日本に残る配偶者に収入があり、自身の生活費と子どもの生活費を賄っている場合は、配偶者・子どもが日本に残っているからといって、直ちに「日本に住所がある」とはいわれない、といっていいでしょう。

 

④資産の所在等

資産の多くが日本にある場合、それも「日本居住者」と判断される理由付けのひとつとなります。

 

ただしこの要素は、「居住・非居住」の判定の4要素のなかでは、重要度が最も低いと思われます。つまり、①②③の要素を満たしていれば、資産が日本に多いという一点だけで「日本居住者」と判定される可能性は低いといえそうです。

 

とはいえ、確実に「非居住」になるためには、資産をできる限り海外に置くなどの手当てはしておくほうがよいでしょう。

「税を回避する目的あり=居住者として扱う」なのか?

サラリーマンが勤務先から海外駐在を指示される場合と異なり、会社のオーナー一族の1人が海外に住もうとする場合、税務署から「納税を回避しようとする意図がある」と疑われるリスクがありそうです。

 

では、もし「納税を回避する意図」がある場合、それによって「〈日本非居住〉とはいえない」と判定されてしまうのでしょうか?

 

この点についても、先述した武富士事件が判断しています。

 

武富士事件で最高裁判所は、

 

「一定の場所が住所に当たるか否かは、客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かによって決すべきものであり、主観的に贈与税回避の目的があったとしても、客観的な生活の実体が消滅するものではない」

 

と、判断しています。

 

つまり「客観的に生活の本拠たる実体」があるか否かに基づいて、どこが住所であるかを判断すべきとの立場に立ちました。

 

しかし、この判決をもとに「節税の意図があっても非居住者になれる!」と安直に考えるのは危険です。この判例は、あくまでも「節税の意図がある場合は、住所とはえなくなる」という考えを否定しただけで、「節税の意図」を補充的なファクターとして考慮することまでは否定したとはいえません。そして、この考え方が、税務署のプラクティスに近いように思います。

 

ですから、仮に海外移住が節税目的であるとしても、「ビジネスの国際展開」など、建前上であっても移住の理由を考えておくほうがいいといえます。

 

 

小峰 孝史
小峰 Investments
マネージング・ディレクター・弁護士

 

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