優秀な社員を失わないために、何をすべきか考えることが重要
このような状況を考えると、引き続き優秀な若手・中堅の人材を多くの企業が激しく奪い合う構図が続くと思われます。このたびの賃上げと連動し、採用コストもおそらく釣られるように上昇を続けるものと予測しています。
この採用コストを下げるには、人材の流動性を高めることが必須になりますが、一生涯の転職回数が増えることによる多少の流動性の向上は見られるものの、まだまだグローバル化とは程遠い閉鎖的な環境が蔓延しているといえます。
こうした状況においては小さなコップのなかで流動性が高まっているにすぎず、大きな流れで採用コストを下げるというところには至っていないと思います。ですから、今年中あるいは来年あたりまでは採用コストの上昇が続くのではないでしょうか。
伝統的な大手企業のなかには、もともと通年採用を中心としたネームバリューのある会社があります。そこでは集客力や採用力があり、これまで採用に関しては人を選んで採れるという、よくいえば横綱相撲を取ってきた会社も多いと思います。ところが、最近は若年層を中心に企業評価に関しても非常に価値観が多様化してきています。
ですから、伝統的なネームバリューを持つ大手企業といえども、この採用力強化の部分であぐらをかくと危険なことになります。ある年を境に一気に人で対応できなくなるということもあり得ますので、充分な対策が必要です。
冒頭に申し上げたとおり、採用も大事ですが、退職させてしまうとなかなか補充が利かない点に留意するべきではないでしょうか。
さて、若い人のなかには日本とアメリカが戦争をしたことをあまり知らない人もいるそうです。そのような時代に太平洋戦争の例を引くのもどうかと思いましたが、わかりやすい事例なので参考までにご紹介しようと思います。
近代戦争では航空機が大きな存在感を持ちますが、その航空機を乗りこなすのはいうまでもなく訓練された操縦士です。この操縦士を戦闘で亡くしてしまうと補充が非常に難しいわけですが、戦争当時の日本はそこまで対応ができませんでした。
ひとりの操縦士を育てるために必要な訓練や燃料は相当なものになります。ですからアメリカなどはパイロットを戦死させないことにコミットメントし、頑丈な機体を作ったりパラシュートなどの脱出装置を装備したり工夫をしていました。
日本軍は残念ながら兵を使い捨てにする傾向があり、人を守るという配慮ができなかったようで、多くの優秀な人材を失いました。
現代の企業活動でも同じようなことがいえるのではないでしょうか。失った人材を補充するのはもちろん大切なことですが、優秀な社員を失わないために何をすべきか考えるべきです。
言い換えれば、いかに短期退職をさせないか、という仕組みづくりがますます重要になってきます。そういう意味で企業にとっては、採用力の優劣が問われる新年度のスタートになるのではないでしょうか。
福留 拓人
東京エグゼクティブ・サーチ株式会社
代表取締役社長