平成の時代、生前贈与された財産にかかる「約1,300億円」に及ぶ贈与税が、「支払い義務なし」と裁判で認められる事件が起こりました。本記事では<株式会社T&T FPコンサルティング>の髙島一夫氏・髙島宏修氏、<株式会社ユナイテッド・パートナーズ会計事務所>の西村善朗氏・森田貴子氏らによる共著『富裕層なら知っておきたいスイス・プライベートバンクを活用した資産保全』(総合法令出版)から一部抜粋し、相続税の歴史について解説します。
海外資産の相続税に影響を与えた、武富士事件
ここで特に影響したと考えられているのが、いわゆる「武富士事件」です。事件が起きるきっかけは、消費者金融大手として知られる武富士の創始者が、香港に在住する長男に海外法人の株式を生前贈与したことにありました。
当時の相続税法では、海外の居住者が国外財産を贈与や相続で取得した場合、課税対象外とされていたため、当然ながら長男は贈与税の申告をしませんでした。
ところが、この事実を把握した税務当局は、約1,300億円の贈与税を申告しなかったと判断し、贈与税の決定処分を下します。つまり贈与税を半ば強制的に課したのです。この処分の根拠とされたのが、「住所」の解釈にありました。
税務当局側は、「香港の住所は税法上の住所ではなく、長男の住所は国内にある」と主張しました。この判断の根拠については複雑なため説明を割愛しますが、税務署としては「香港は税逃れのための仮の住所」という判断をしたことになります。
贈与税の決定処分を受けた長男は、処分を不服として訴訟を提起しました。この訴訟は最高裁まで持ち越され、最終的に2011年2月に長男の勝訴が確定しました。「長男の住所は国外(香港)にある」と判断されたため、当時の法律では「長男は贈与税を申告・納税する義務はない」という結論が出たことになります。
武富士事件は法改正に発展
このように、武富士事件そのものについては、国側が敗訴したわけですが、これら一連の訴訟が行われている間に、財務省は外国籍を取得する贈与スキームに対して、国外居住者や国外財産に対する相続税や贈与税の締め付けの強化を始めました。
2013年の税制改正において、日本に住所がある者からの贈与については、国外居住者で日本国籍がない者に対しても、すべての財産が課税対象になっています。こうした流れから、今のような海外移住による税逃れがしにくいルールになったのです。
相続税の納税義務者の判定は、税務調査で着目されることが少なくありません。自身が制限納税義務者と考えて国内財産だけを申告していたら、税務調査により生活の本拠地が日本と認定され、国外財産も含めて修正申告をするよう求められることがあります。
髙島一夫
株式会社T&T FPコンサルティング
代表取締役社長CFP
髙島宏修
株式会社T&T FPコンサルティング
取締役CFP
西村善朗
株式会社ユナイテッド・パートナーズ会計事務所
代表取締役税理士
森田貴子
株式会社ユナイテッド・パートナーズ会計事務所
パートナー税理士
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株式会社T&T FPコンサルティング
代表取締役社長CFP
早稲田大学卒業後、大和証券に入社。ロンドン大学留学後、大和スイスSAにて、日本株・債券の投資アドバイザーとして8年間勤務。その後、外資系証券会社数社に機関投資家マーケティング部門の責任者として勤務。1990年からスイスの大手プライベートバンクであるピクテ(ジャパン)の取締役として5年間勤務。1996年に独立して、主に個人富裕層を対象に資産運用のコンサルティング業務を開始。主な著書に『資金3000万円からできるスイス・プライベートバンク活用術』(同友館)、『世界の富豪に学ぶ資産防衛術』(G.B.)などがある。
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連載『富裕層なら知っておきたいスイス・プライベートバンクを活用した資産保全』
株式会社T&T FPコンサルティング
取締役CFP
1985年生まれ。日本大学経済学部経済学科卒業後、豪ボンド大学大学院でビジネススクールBBTグローバルリーダーシップMBA(経営学修士)取得。経営コンサルティング、資産運用会社で実務経験を積み、株式会社T&T FPコンサルティングのコンサルタントとして従事。2014年にCFPを取得し、取締役となる。現在、個人向けの資産運用相談業務を担うファイナンシャルアドバイザーとして活躍している。
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連載『富裕層なら知っておきたいスイス・プライベートバンクを活用した資産保全』
株式会社ユナイテッド・パートナーズ会計事務所
代表取締役税理士
慶應義塾大学卒業。現みずほ銀行・本店出向(新金融商品開発業務)、現KPMG税理士法人等を経て独立。現株式会社パリミキ・ホールディングス社外監査役。プライベートエクイティファンド及びその投資先企業、関係する創業経営者個人の顧客を中心として創業した会計事務所という特色がある。戦略的M&A税務ストラクチャーの提案、国際資金調達、エクイティファイナンスに関連する法人税務及び個人富裕層に対する所得税・相続税対策業務に従事し、特に、きめ細かい税務調査対応では一定評価を得ている。
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連載『富裕層なら知っておきたいスイス・プライベートバンクを活用した資産保全』
株式会社ユナイテッド・パートナーズ会計事務所パートナー・税理士/経済学修士/商学修士/ MBA(豪州)
慶應義塾大学会計大学院修了。アーサー・アンダーセン等を経て、2003年現会計事務所創業に参画。プライベートエクイティファンドや産業再生機構の100社を超える大企業投資先の再生案件に従事。PEファンド運営会社やM&A買収企業に対し、会計・税務インフラ構築から税務調査対応までワンストップで支援してきた。また、PEファンド経営陣や創業家ファミリーなど、数多くの富裕層に対する資産管理会社の設立・運営、相続・所得税対策に携わり、実務経験は30年に及ぶ。
近年は「お金の使い方=生き方」という視点から、ファイナンシャル・ウェルビーイング(経済的な安定と心身の充実を両立する新しいお金の哲学)を提唱。富裕層実務で培った知見をもとに、中間層から超富裕層まで幅広い層に向けて「見えない自分資産」を育てるヒントを発信している。著書に『儲けのしくみがわかる!決算書の読み方』(三笠書房)、『幸せへのマネーバイブル 新・女性のライフステージ別ガイドブック』(中央経済社)などがある。
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