老後資金に対して不安を抱えている人は少なくありません。行政書士でリスタートサポート木村勝事務所代表の木村勝氏は、業務委託契約のかたちをとることで、「“半”個人事業主」という働き方を提案しています。木村氏の著書『老後のお金に困りたくなければ 今いる会社で「“半”個人事業主」になりなさい』(日本実業出版社)より、詳しく解説します。
業務内容も会社も同じだが…65歳以降の収入に圧倒的に差がつく「“半”個人事業主」という働き方【専門家が解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

“半”個人事業主 vs 再雇用の65歳以降の収支比較

具体的なイメージを持っていただくために、「半個人事業主」「再雇用」の2つのシナリオに実際の金額を入れてみました。

 

まずは、前提となる収入イメージです。令和4年賃金構造基本統計調査の概況(2023年3月17日発表)によると60歳~64歳男性の賃金平均321.8万円となっています。

 

少々古いデータですが、労政時報「高年齢者の処遇に関する実態調査(2019年11月22日号)」による再雇用後の年収水準平均も321.8万円と偶然にも同額になっていますので、60歳定年再雇用後の平均的な賃金はほぼこの水準と考えていいと思います。

 

再雇用のレールに乗った場合には、65歳までは基本的には増えることも減ることもなくこの水準が続き、65歳で会社の雇用義務はなくなりますので、多くのケースにおいてこの段階で年金以外の収入はゼロになります(70歳までの全員一律での就労を保証している企業はまだほとんどありません)。

 

これからの時代は65歳で悠々自適というわけにはいきませんので、多くの方がハローワークなどに通い、今までの経験とはまったく関係のないパートタイマー的な業務を探すことになりますが、仕事にありつけたとしてもその給与水準は厳しいものがあります。最低賃金の時給水準というのが現実です。

 

また、65歳以降のパートタイマー的な仕事に、サラリーマン時代の役職、実績、所属企業の規模などは一切関係ありません。大企業の元事業部長であろうが、平社員であろうが、全員同列でのスタートです。健康で人柄もよく、与えられた仕事を要領よくこなす人がこの市場では要求されます

 

ちなみに、東京都の最低賃金(2023年10月1日以降)は、時給1,131円ですので、仮に週5日/月20日8時間勤務をした場合(体力的にも65歳以降の「週5日フルタイム勤務」は現実にはなかなか厳しいものがありますが)で月収17万8,000円(=年収213.7万円)です。

 

“半”個人事業主のメリット

これに対して、“半”個人事業主戦略では、60歳以降はフルタイムではなく週3日程度働き、余裕のできた残りの2日間は新規情報・スキル獲得や新規クライアント獲得のための営業活動に充当することを想定しています。

 

“半”個人事業主としてのスタート当初(60歳)の年収は、週3日のサポートで193.2万円(321.8万円×3/5日間=193.1万円)と、再雇用よりも減額した形でのスタートになりますが、65歳までの5年間で今の会社以外のクライアントを増やしていきます。

 

新規クライアント獲得の時期については個人の状況などに応じて変わりますが、「(大多数のシニアサラリーマンと同じように再雇用のレールに乗っていれば)やりがいも持てず無為にすごしている再雇用の5年間」を意識的に活用してクライアントを2社、3社と新たに獲得することは決して非現実的なことではありません

シミュレーションしてみよう

具体的にシミュレーションしてみましょう。

 

“半”個人事業主となった以降は、2日間の余裕時間を営業活動に充当し、まずは1年間かけてもう1社の業務委託契約締結を目指します(61歳時点)。目標とする業務委託料は、月4回(週1回)のサポートで1社月額20万円(=年間240万円)です。

 

さらに、次の1年間をかけて(62歳時点)もう1社業務委託契約を増やします。これで3年目の売上は673.1万円(193.1万+240万円+240万円)となり、まずこの段階で再雇用の給与水準(322万円)をはるかにしのぐ(2倍!)ことができます。

 

個人事業主の強みはこれからです。再雇用の場合には、先述の通り、多くのケースで65歳で終了になりますが、個人事業主には雇用のように制度としての終了はありません。65歳以降も、自分が望む限り、体力の続く限り、いつまでも働くことができます。高さではなく面積で稼いでいく戦略です

 

雇用であれば本来65歳で終了のところを業務委託契約であるがゆえに継続でき、70歳を超えて続けている個人事業主の方もいらっしゃいます。

 

65歳以降も長年勤務してきた会社との業務委託契約を継続し、さらに2社の業務委託を継続できたとすれば、673.1万円のベース年収が継続可能です。

 

さらに、ここから新たにクライアントを拡大してもいいですし、個人事業主の業務内容をコンテンツ化することによって専門領域のセミナー講師として活躍することも十分可能です。