「60歳定年の1ヵ月前の退職がおトク」といわれる理由と落とし穴
では「60歳定年の1ヵ月前の退職がおトク」とは、どういうことなのでしょうか。それは「60歳を区切りとして退職を検討した場合、退職日によってもらえる雇用保険の給付に違いが生じるから」というのが理由。
失業保険の給付日数は、自己都合による退職の場合、60歳未満でも60歳定年退職でも90~150日で一緒。ちなみに60歳未満で会社都合による退職であれば、90~330日になります。
基本手当日額の上限は、60歳未満であれば月8,490円。対して60歳定年であれば月7,294円。賃金日額が1万6,210円を超えている場合、60歳で定年退職をすると基本手当日額の上限にかかってしまい、59歳11ヵ月で退職したほうが受給金額が増える可能性があります(図表)。その差は、最大1,196円の差。それが150日になると18万円近くにもなるのです。さらに会社都合の退職であれば、給付期間は最大330日なので、雇用保険の給付は40万円弱になる計算です。
確かに「定年退職をしたあとは一度ゆっくりして、働くか、働かないか決めよう」と考えているなら、18万円の差は大きいかもしれません。
ただし本当におトクなのかは、疑問が残るところ。
まず退職金規定をしっかりと読み解くことが大切です。59歳11ヵ月と、1ヵ月早く退職したことで、退職金が大きく減少してしまうリスクがあります。
また自己都合退職だと、7日の待機期間のあと、2~3ヵ月の給付制限があります。60歳で定年退職した場合は7日の待機期間が経過すれば、給付制限なく、失業保険の支給が開始されます。
さらに退職を1ヵ月早くやめるということは、1ヵ月分の給与がもらえない可能性が大。59歳のサラリーマンの平均給与は、月収で52.5万円、賞与も含めた年収は857.6万円。どう考えても、雇用保険のおトク分ではカバーできません。
なによりも再就職を決めてしまえば給付は終了。雇用保険を最大限もらいたいと活動をしていない間に手にする給与も考えたら、かえって損をしていることもありえますし、ブランクが生じることで再就職に不利になる可能性もゼロではありません。
こうしてみていくと「59歳11ヵ月で退職」でトクするには、かなり条件が揃わないと成立しないことがわかります。
「退職時期を1ヵ月早めるだけで雇用保険が多くもらえる」
そんな謳い文句に何も考えずにのってしまうと、大きく損をしてしまう可能性が高いのです。
――うっ、うそだろ! おトクだと聞いていたのに!
そう悲鳴をあげたところで、後の祭りです。
[参考資料]