私大医学部なら3,000万円前後のところ、“6年間ずっとタダ”も
一般的に、私大医学部では3,000万円前後の学費が発生します。「できるだけ学費がかからない医学部に入りたい。でも国立医学部はほぼ前期日程の一発勝負で、共通テストも…」と考えている人もいることでしょう。しかし、諦めないでください。「学費タダ」「学費免除」などの制度を設けている大学もあるのです。
今回は、おトクに学べる奨学金制度が充実した医学部、6年間ずっとタダで卒業できる特殊医学部を紹介し、そのメリットやクリアすべき条件について解説します。
6年間「学費ゼロ」の医学部はここだ
日本私立医科大学協会の調査によりますと、医師の養成費用は、医学部の6年間で「約1億円」。医学部進学を目指す子の親であれば、将来のためにある程度の出費は覚悟しているものですが、さすがに「億超え」となると、容易に決断できるものではありません。国立大医学部の場合、6年間の学費は約350万円程度です。そこを目指せるに越したことはありませんが、当然難易度も高く、狭き門です。
とはいえ、悲観するのは尚早です。条件を満たせば学費がタダになる医学部は、ほかにもあります。
たとえば、埼玉県所沢市にある防衛医科大学校は、卒業後9年間、自衛隊に勤務することを条件に、学費が全額免除になります。加えて、在学中は全寮制なので生活費負担が少なく、給与や賞与も支給されます。ただ、同大学は軍医養成校なので、自衛官としての実務訓練(パラシュート降下や野営など)も必須。学力のみならず、体力勝負なところもあるので、身体能力に自信がある人にはおすすめです。
もう1校は、栃木県下野市にある自治医科大学です。同大学では卒業後9年間、学生の出身地にある、へき地医療施設等で勤務することを条件に、学費が全額免除されます。授業では、CTやMRIなどを使わずに身体初見を行う訓練を繰り返し、医療の最新機器が導入されていないへき地での診断や、緊急性の判断が行える医師を育成します。こちらも全寮制で、寮費は月額8,500円程度。安価な食堂や勉強室なども完備されており、志高い学友とともに、国家試験へ前向きに取り組める環境が整えられています。
成績優秀なら、各医学部の「特待生制度」を利用する手も
各医学部の医師国家試験合格率は、受験生の志望校選びの指標となっており、この数値が医学部の人気を左右すると言っても過言ではありません。そのため各大学は、「特待生制度」を設けて優秀な学生を集めることにも力を入れています。学費等を免除することで多くの志願者が集まれば、成績優秀な学生の入学率も高まり、将来的には国家試験の合格率アップにもつながるからです。
以下は、各医学部が提示している特待生制度の一例です。
●国際医療福祉大学「医学部特待奨学生制度」(医学部特待奨学生S/A)
特典:「医学部特待奨学生S」の場合、1年次300万円を給付・入学金150万円を免除、2年次以降は毎年次280万円を給付(6年間で最大1,700万円給付)。これに加えて学生寮の寮費を全額給付。「医学部特待奨学生A」は、1年次250万円を給付・入学金150万円を免除、2年次以降は毎年次230万円を給付(6年間で最大1,400万円給付)。
選考条件:各入試区分において特に成績優秀で人物識見ともに優れる者(医学部特待奨学生Sは一般入試のみで20名。医学部特待奨学生Aは一般入試25名、共通テスト5名、その他の区分で若干名)。
●北里大学「特別待遇奨学生制度」(第1種/第2種)
特典:(第1種)入学金、授業料、施設設備費および教育充実費の納入免除。免除額は学費全額。/(第2種)入学金および授業料の一部の納入免除。免除額は6年間で19,450,000円。
選考条件:一般入試合格者のなかから上記2区分による特待生を選考(若干名)。
●慶應義塾大学医学部「医学部人材育成特別事業奨学金」
特典:4年間、年間200万円(総額800万円)を給付。
選考条件:一般入試成績上位者10名程度。
各大学の地域枠や、自治体・医療法人による奨学金も要チェック
2016年度の医学部卒業生から施行された「新専門医制度」によって、医師免許取得後2年間は内科、小児科、精神科など、多数の専門科を巡回して研修を行ったあとに、専攻科を決めるルールになりました。専門ごとの質を担保するために始まったこの制度でしたが、症例数や指導医が多い都内の病院に学生が集まるようになり、地方の医師不足が深刻化する要因の1つとなってしまいました。
都会へと流れていく医師、枯渇する地方医療、この悪循環を打破するために誕生したのが「地域枠入試」です。
地域枠入試は、一般入試とは別枠で合否判定されます。入学が決まれば奨学金が貸与され、卒業後一定期間(おおむね9年から11年)、指定された地域の医療機関に勤務することで貸与金の返済が免除されます。2008年頃から地域枠の募集人数は年々増員されており、2019年度では札幌医科大学が一般入試を含む定員全体の約8割、東北医科薬科大が約5割を地域枠に充てているなど、全国の医学部総定員数の15~18%が地域枠であると推測されます。
加えて、医師不足に悩んだ地方自治体が、独自の奨学金制度を設置しているケースもあります。以下は、地域内の特定の大学に入学する人を対象に、奨学金制度を用意している地方の一覧です。
北海道(札幌医科大など)/秋田県(秋田大)/福島県(福島県立医科大)/埼玉県(埼玉医科大など)/千葉県(千葉大など)/山梨県(山梨大など)/愛知県(愛知医科大など)/奈良県(奈良県立医科大など)/和歌山県(近畿大)/鳥取県(鳥取大など)
以下は、大学指定なしで、奨学金制度を設けている地方自治体です。
また、病院独自で奨学金制度を設けている医療施設もあります。そのひとつが、救急や離島医療に力を入れている医療法人グループ「徳洲会」の奨学金制度です。在学中は毎月15万円が貸与されます。医師資格取得後は、同グループの関連医療施設で貸与期間の3分の2にあたる日数を勤務すれば、貸与金の全額が免除されます。
地方での生活費も加味し、経済状況や学力レベル、条件に合う選択を
以上、奨学金制度が充実している大学・地域を紹介しましたが、地方の大学の場合、学費のほかに、家賃や生活費が発生することもしっかりと把握しておきましょう。
また、始めに契約内容をしっかりと確認しておくことも大切です。
下記は数年前に筆者のもとに届いた相談メールです。
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『私は20XX年に都内の歯学部を卒業後、20XX年にXX医科大学にAO地域枠として入学し現在医学部X年です。ところが入ってみると初期研修施設の縛りや専門医取得における縛りなど後出しジャンケンのように縛りが強くなっていきました。そこで離脱の意向を伝える(もちろん貸与されたお金の返済はすることも伝えてあります)とまるで犯罪者扱いを受ける始末です。』
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(※XXは筆者による伏字)
実際にこのようなことも起こりうるということは知っておいたほうがよいでしょう。説明会などで、自治体の担当者にしっかりと条件を確認しておくことが重要です。
条件が合えば併願しておくことをおすすめします。一般入試では不合格だったが「地域枠」で合格をもらったというケースもありますし(筆者の生徒にも、このケースで日本医科大学や順天堂大学に合格した人がいます)、地方の国立医学部では、「地域枠」で定員割れが生じるなどしたために、一般入試よりも合格ラインが下がるケースが多いことも事実です。
奨学金の制度は、コロナ禍等を機にパワーアップしたと感じています。たとえば本稿で紹介した国際医療福祉大学「医学部特待奨学生制度」は、次のように充実化しました。
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<2021年度まで>
「医学部特待奨学生制度」
・入学金150万円を免除、最大6年間で1,400万円の給付(1年次250万円、2年次以降は毎年次230万円を給付)。
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<2022年度から>
「医学部特待奨学生S/A」
・医学部特待奨学生S…入学金150万円を免除、6年間で最大1,700万円を給付(1年次300万円、2年次以降は毎年次280万円を給付)。
・医学部特待奨学生A…入学金150万円を免除、6年間で最大1,400万円の給付(1年次250万円、2年次以降は毎年次230万円を給付)。
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学費が安い医学部、奨学金・特待生制度がある医学部、学費が無料の医学部など選択肢はさまざま。経済状況・学力レベルに合った大学を選びましょう。
亀井 孝祥
医学部受験専門予備校メディカ 代表、数学講師
愛知・東海高校から東京理科大学へ。塾講師を経て医学部受験予備校YMSにて数学科主任、教学部長など9年務めたあと、姉妹校設立のため独立。姉妹校提携解消後、医学部受験専門予備校メディカを設立。現在に至る。
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