深刻化する「早期離職」問題
大卒者の3年以内離職率がおおよそ3割前後であることを指す言葉、「3年3割」。これは昭和の時代から新卒採用領域において不文律とも言われてきた不動の比率です。
厚生労働省の「新規学卒就職者の離職状況」によると、新規学卒者が入社3年以内に離職した割合(2019年3月卒合計)は、入社1年以内で14.0%、2年以内で24.1%、3年以内で34.4%と全体の約3分の1になっているというデータも出ており、年々増加の傾向にあるようです(出所:厚生労働省『新規学卒就職者の離職状況』https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177553_00005.html)。
一方で中途採用に目を向けてみると、中途採用者の3年未満の離職率は約50%とも言われていたりもしています(出所:ビズリーチ『早期離職はなぜ起きる? 中途社員の離職率や理由別対応策を紹介』https://media.bizreach.biz/14158/)。
日本は今後30年間で総人口が2,000万人減少するとも言われ、少子高齢化に伴う生産年齢も下落の一途を辿り、社会課題となっていることは周知の事実であります。このような環境要因により多くの企業において人手不足(需要過多)の状態が蔓延しているからこそ、働き手である就業者個人においては「働き先の企業を選びやすい時代」、つまり圧倒的な売り手市場になっていると言えるでしょう。
加えて、2019年の年末に中国の武漢市で第一例目の感染者が報告された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が落ち着いたことを受け、企業サイドにおいてはポストコロナ期への転換に伴い、先行き不透明ゆえに採用という門戸を狭めていた(絞っていた)状態から積極採用に踏み切るケースが散見されるようになってきました。
また、この動きは求職者サイドにおいても同様で、ウィズコロナ期における所属企業の対応に不満を感じていた顕在転職者層や、転職タイミングとなる「3年」以内がまさにこのウィズコロナ期と重複していた潜在転職者層が今後より活発に動き出し始めることを想定すると、この離職率(定着率)の問題は、今後の企業の事業推進において切り離すことのできない重要な経営課題になっていると言っても過言ではないでしょう。
ある程度の早期離職は「致し方ないもの」と捉えていたが…
このような状況は、人材ビジネスの中でも営業に特化したBPOサービスを展開し、年間100名を超える採用を行う弊社のセールスカンパニーにおいても顕著でありました。
加えて弊社では、「入社1年以内の離職」という事象にも同時に向き合わなければならない事情がありました。しかしながら、その主たる要因は
●クライアントワークという働き方
●採用対象者が20代前半から30代前半という若手層
●営業未経験者(職種転換者)多数
という、環境要因と採用ターゲットの掛け合わせによって発生しているものでした。そのためこの事象はある種の「必要悪」という整理をしていたこともあり、事業運営上の課題とは捉えていなかったのです。
ところがウィズコロナ期の真っただなかである2021年4月~2022年3月において、入社1年以内の離職率が12.5%(入社120人中15人が離職)と過去最高を記録。このことを受け、早期離職を本格的に課題と捉え、打開策を検討し実行に移すべく現場で働く所属社員の実態調査を行うことを決意したのでした。
社員の生の声からわかった早期離職率「過去最高」の要因
弊社ではウィズコロナ期において、フルリモートというワークスタイルで業務を行っていたこともあり、テレワークが生み出すコミュニケーション問題を中心に、キャリア不安問題、そして入社前と入社後のGAP問題が多発している状況であることが調査を通じて見えてきました。
以下に記載するのは、具体的な所属社員が持ち合わせていた生の声の一部ですが、
●「悩みはあるが誰に相談すればいいのかわからない」
●「こんなレベルの低い相談は、直接の評価者である上司にはしづらい(できない)」
●「相談しようと思ったものの、上司のスケジュールがオンラインMTGで埋まってしまっている」
●「とりとめのない雑談レベルのコミュニケーションを取る機会が少なく、閉塞感がある」
●「同期の営業成果に遅れを取っていると感じる。自分は営業職に向いていないのでは?」
●「上司の言葉が最初はアドバイスに聞こえたが、徐々に指摘に聞こえてしまうようになった」
●「先輩社員の成功談や失敗談を聞く機会がない」
●「オンラインコミュニケーションのみの関わりのため、繋がりを感じづらい」
といった感情や思いを意図せず抱かせてしまっているということに気付きました。
また、これらの傾向は社歴やビジネス経験の少ない「社内ローキャリア人材」であればあるほど色濃く感じている感情そのものであったということも、生の声の集計と分析を通じて考察しております。
離職率改善のために「キャリア保健室」を発足
課題解決の具体策として2022年4月に組成したのが、「エンプロイーサクセスグループ」という「所属社員の成功体験支援」を目的にした組織です。この組織を社内で浸透させるために別名「キャリア保健室」と名付けて社内広報を始めました。
この組織の特筆すべき点は、
●所属メンバー7名全員が本組織の専任メンバーであること
●所属メンバーそれぞれが独自の専門性(資格を保有している面々で構成されていること(キャリアコンサルタント、パーソナルトレーニング、保育士など)
にあります。加えて所属メンバーは採用や人事、そして評価などの職責や権限を一切保有しておりません。教育と面談フォローの側面から従業員満足度(ESの向上のみをミッションに活動し続けることも、「キャリア保険室」の大きな特異性の一つであると考えています。
「キャリア保険室」メンバーの具体的な活動内容としては、
●2週間に及ぶ入社時研修の講師業務
●伴走支援プログラムの実施(新入社員一人ひとりに対して専任のメンバーがその後1年かけて継続的に面談を行う
●相談マップ(図表)をベースとした指名面談対応(相談ごとを抱える社員が相談内容や自分のタイプに応じて相談相手を自らが指名できる
●エンゲージメントサーベイの定期運用と分析
といったものになります。
取組開始から1年で「入社1年以内の離職」が66%減少
「キャリア保険室」発足1年目で、同年に入社した146人のうち退職者は5人と前年比6割以上の減少。離職率は3.4%(9%DOWN)にまで低減させることに成功しました。カンパニーCEOとして、発足から短期間でこのような目覚ましい定量成果が生まれたことは良い意味で「想定外」でした。伴走支援した入社1年目の社員が目標達成をして表彰されている姿や、相談マップを活用した指名相談後に明るい表情でオフィスに戻ってくる姿を見て心から嬉しく感じます。
自分が所属する会社の中に第三者的な立場で悩みを聞いてくれる人がいることは、コミュニケーションが分断されやすい時代や働き方を強いられる中において心の平穏や繋がりを感じられる状態を生み出し、結果として離職者の低減に繋がったと感じています。
肝心な営業支援事業の業績におきましても、ウィズコロナ期そしてアフターコロナ期を昨対比2ケタ成長で拡大させることができました。
取り組むべきは「従業員視点のアプローチ」
昨今、離職率の低減と定着率の向上はもはや企業規模やブランドに起因しない日本企業が抱える共通課題の一つになりつつあると感じています。少し先の未来を想像すると、日本社会の構造上、離職率は今後ますます高まっていく…つまり、より大きな企業課題となっていくことが想定されます。
人的資本経営というキーワードも注目されていますが、弊社の取り組みに限らず「働き手が抱える不安を解消する」という従業員視点のアプローチを、各企業でもできる範囲から様々な策を講じ、その効果を検証し続けていくということ。そして、自社にマッチした施策を生み出していくことが重要になると思います。
松澤 真太郎
株式会社セレブリックス
セールスカンパニー
取締役 執行役員 カンパニーCEO
入社以来、社内の様々な部署の営業・営業リーダーを歴任。入社4年目で年間売上・粗利額のギネスを達成し、全社の年間MVPを獲得。現在では、執行役員として営業代行事業および営業コンサルティング事業の管掌を行い、400名の組織を統括。2022年4月よりセールスカンパニーのCEOに就任。