物価高が続くなか、苦しい家計を助けようと、実質値下げのキャンペーンなどを展開する小売店やメーカーの存在。そんな光景を苦々しくみている、氷河期世代の男性の姿がありました。そんな男性の背景には、時代に翻弄されてきた苦労がありました。みていきましょう。
使い切れんだろ!「手取り18万円の40代男性」、スーパーに並ぶ「大容量のマヨネーズ」に怒ったワケ【時代に翻弄される氷河期世代】

40代男性…独身・非正規のワケ

男性が独身、40代にして非正規社員の理由を紐解いていくと、時代に翻弄された氷河期世代の苦労が凝縮されています。

 

男性が大学を卒業したのは2000年。厚生労働省『厚生労働白書』によると、就職氷河期のなかでも2000年は底の底。大卒就職率は91.1%まで落ち込みました。

 

――9割は就職できているのだから問題ないじゃない

 

と思うかもしれませんが、希望しない職業にも関わらず「就職できるだけまし」と進路を決めた人が多数。正社員になれたとしても、超がつくほどの買い手市場に加え、いまのように従業環境が良い時代ではなく「嫌なら辞めてしまえ!」とパワハラも横行。耐えきれずに退職を選ぶ人も大勢いました。

 

男性も希望する職ではなく、就職浪人したかったものの就職せざるを得なかった状況にあったといいます。その理由のひとつが「奨学金の返還」。大学を卒業とともに始まる返済に、働かざるを得なかった、というわけです。

 

労働者福祉中央協議会『奨学金や教育費負担に関するアンケート』によると、借入額の平均は300万円強、月々の返済額は1.5万円ほど。平均返済期間は平均14.5年です。2000年当時の最低賃金額(全国平均)は659円。時給1,000円を超えるアルバイトは珍しく、とてもフリーターをしながら奨学金の返済はできなかったと振り返ります。

 

また同アンケート調査でも指摘している通り、奨学金の返済負担は、ライフイベントにも大きく影響。「結婚」では37.5%、「出産」では31.1%、「持ち家取得」では32.8%が、奨学金の返済が影響したと回答しています。40代・独身の男性も「奨学金の返済がなければ……」と振り返り、思わず、ファミリーパックだけが並ぶスーパーの陳列棚にイラっときてしまったわけです。

 

奨学金を払い終えたのは40歳を目前にしたとき。ちょうど心身ともに壊れ、退職を決意したといいます。それ以来、非正規社員として生計を立てています。

 

厚生労働省『令和4年 賃金構造基本統計調査』によると、男性・40代後半の非正規社員の平均月収は24.4万円、手取りにしたら18万円ほどです。一方、正社員であれば月収39.5万円。1.6倍ほどの給与差が生じています。

 

男性の場合、正社員としてのキャリアもあるので、希望すればどこかしらの正社員になれる可能性は高いといえます。問題は、新卒時に就職できずに、非正規社員として社会人生活をスタート。一度もチャンスを掴めずにいる人たちです。就職氷河期世代における非正規社員は約400万人。そのなかには、一度も浮上できずに、苦汁をなめてきた人たちが多くいます。

 

このような人たちを支援する動きがここ数年で始まっていますが、その支援も十分とはいえない状況。そんななか異次元の少子化対策に関心は集まり、このまま支援も尻つぼみに……。一度も浮上できずにいる氷河期世代は、再び忘れられた存在になりつつあります。

 

[参考資料]

総務省『消費者物価指数 東京都区部 2024年1月分(中旬速報値)』

厚生労働省『令和2年版 厚生労働白書』

労働者福祉中央協議会『奨学金や教育費負担に関するアンケート』

厚生労働省『令和4年 賃金構造基本統計調査』