FPからの悲しいアドバイス
世帯年収がまだ700万円あるとはいえ、将来の家計はギリギリの綱渡り状態。もし資産運用などをなにもしなかったとしたら65歳時の預貯金は900万円しか残りません。
それどころか、予想される預貯金額も机上の計算でしかなく、現在預貯金ができていないことから、習慣を変えない限り、この900万円を貯めることも厳しいのではないかということでした。
Bさんの年収は250万円と低い状態ですが、子供が3人いる状態での転職はリスクが高いので現状維持をすべきともアドバイスを受けます。
住宅ローンを完済したあとは建物の大規模修繕もあります。老後の生活費の貯えも必要です。しかし、いまのままではそれらの準備は無理そうです。このままいけばきわめて貧しい老後生活となります。
「ペアローンで高い家を買ったのがミスだったのでしょうか?」と妻Bさんは質問します。
「ミスではありませんが、時期を間違えたかもしれません」とFP。「双子のお子さんの教育費の負担が非常に重いため、まずは教育費の準備を優先すべきでした。大学を卒業したころに預貯金にゆとりがあったら、老後に向けて家を買ってもよかったかもしれませんね」
しかし、現状として、すでに家を買ってしまっています。ほぼフルローンであったため売却しても借金が残ってしまうでしょう。都心のマンションと異なり、郊外の中古戸建てはよい値段では売れません。今後やるべきことは支出の徹底した削減と、夫Aさんがなんとか休みをやりくりして子育てに協力すること、そして資産運用と貯蓄をすることです。
「もうなんだか将来が暗いですね……」とBさんは落ち込んでしまいましたが、家を買った以上、厳しい生活でも頑張るしかありません。
1億円タワマンをペアローンで買う夫婦も同じように苦しいのか?
一方で、Aさんと同世代で、世帯年収1,600万円の夫婦には、1億円の融資の可能性があります。もし1億円のタワマンを購入したら……この場合のペアローンも事例のように生活が厳しくなるものでしょうか。
驚くことに、こうしたケースでは同様の結果にならないことが多いといえます。理由としては、年収が高い世帯の場合、事例にあるような世帯年収800万円の夫婦のような事態にはなりにくいのが現実です。1億円の融資を受けられる人は、信用情報だけではなく職業、勤務先の属性も厳しく判断され、多くは夫婦ともに大手企業勤務者や公務員ということになるでしょう。いわゆるパワーカップルと呼ばれる人たちです。
職業上、昇給もあり年収が急激に下がることも考えにくいです。退職金も潤沢で、育児休業後も職場復帰の心配は少ないでしょう。
そして生活費自体は高所得世帯も大きくは変わりません。毎月26万円の返済をしても、決して生活は苦しくはなく、しっかりと貯蓄や資産運用ができます。
都心のタワーマンションは資産性にも優れているため、将来的に売却をしてリタイア資金にすることも可能かもしれません。そうなると家計のキャッシュフローには非常に余裕があり、子供への相続問題を心配しなければならないほどです。
「年収の7倍の額をペアローンで融資を受けて住宅を買う」のであっても年収によってここまで状況が違ってしまうのは、考えれば当たり前のことですが、つい忘れがちなのかもしれません。
新築住宅の価格高騰が落ち着く目途がつきません。ペアローンで住宅を買うときには、将来のキャッシュフローを緻密に計算してみることをおすすめします。ペアローンを借りてはいけない場合もあります。そして年収によっては住宅を買ってはいけないタイミングも確実にあります。住宅資金の専門家のアドバイスを仰いで判断してください。
長岡 理知
長岡FP事務所
代表