高齢化が進むなか、昨今では高齢施設のなかにも単なる老人ホームだけでなく、高級志向のものやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)といった選択肢が増え、老後の住まいが多様化しています。終の棲家に選ぶ人も多いなか、一方で入居後に合わないと感じる人も……。本記事では、Aさん夫婦(ともに70歳)の事例とともに、「老人ホーム探し」で注意すべきポイントについてCFPの伊藤貴徳氏が解説します。
老人ホームの若輩者「私たちには時期尚早でした」…年金36万円の70歳夫婦、3,000万円支払って高齢施設入居も、5ヵ月で“3階建ての家”にさっさと帰還のワケ【CFPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

たった5ヵ月で退去…その理由は?

食事の味付けが合わない

老人ホーム生活で楽しみにしていたもののひとつが、食事でした。広い食堂で提供される季節に合わせた献立は、見学の際のお気に入りポイントでした。

 

料理の盛り付けも工夫されており、さまざまな献立が用意されていて最初は雰囲気で食事を楽しんでいましたが、Aさん夫婦は自分達の好みの味ではないことに徐々にストレスを感じ始めます。

 

「献立もしっかり考えられていて工夫されているのですが、基本的に少し薄味で私たちにはちょっと物足りないと感じました。それもそのはずで、食堂で食べている居住人の方々は、私たちより1回りくらい年齢が上の方がほとんどだったんです」

 

Aさん夫妻は70歳。周りを見渡すと、およそ80歳以上の人が大半だったとのことです。

 

居住人との年齢層が合わない

食事の一件で自分達と居住人の年齢層の違いに気づいたAさん夫妻は、どうしてもそこに目が行くようになってしまいます。共有スペースで談笑している人、中庭で散歩をしている人、レクレーションに参加している人……。どこにいても年齢の近い居住人と会うことはなく、会話に入りづらいと思うようになってしまいました。

 

Aさんの夫も同様で、居住人同士の交流を通じて会話や運動をしようと考えていたのに、むしろ自分達の部屋に篭るようになってしまいました。

 

そして老人ホームに入居して5ヵ月、Aさん夫妻は退去を決意しました。

 

「老人ホーム自体は設備もよく、文句などなかったのですが、私たちには食の好みと居住人との年齢層が合いませんでした。見学のときには設備や住環境のことばかりに目がいって、実際に住んでいる方の雰囲気まで確認できていなかったので……」

 

幸い、まだ持ち家は売却していなかったのでもとの住まいに戻ることはできました。しかし、入居時に支払った一時金はすでに2割ほど償却されており、一時金として支払った約8割が戻ってくる形となりました。

 

「今回の件で老後の住まいを探すときの、私たちならではの外せないポイントがよくわかりました。主人も老人ホームでの生活が少し刺激になったようで、身体を動かす努力を始めています。家の片付けも一緒に手伝ってくれるので、最近では2階のトイレを使ったり、3階の窓を開けに行ってくれたりもまたするようになりました。

 

もしかすると、なんとかずっとこの家に住んでいけるかもしれませんね。初めての老人ホーム探しは失敗だったかもしれないけれど、今後につながるいい経験と思って、前向きに暮らしていきます。老人ホームは私たちには時期尚早だったみたいです」

老人ホーム探しのポイント

・実際に見学や体験入居を行い、施設の雰囲気を確かめたり設備/サービスを体験してみる
・食事は試食し、献立や味付けが自分の好みか確認する
・居住人の雰囲気を確認、実際に自分が住んだときに楽しく過ごせそうかイメージしてみる
・レクレーションや趣味を楽しめる交流イベントの有無

 

終の棲家となるかもしれない老人ホーム。実際に入居してみると、入居前には見えづらい、思わぬデメリットが見つかるかもしれません。それが自分たちのこだわりの点であれば、のちのち大きな問題となるでしょう。

 

加齢による身体の変化が、老人ホームなどの高齢施設入居のきっかけになる人が多いです。しかし、施設の入居の際には、現役時代、高額な住宅ローンを組んで持ち家を購入することを決めたときと同じレベルの覚悟で検討する必要があるのです。そうでなければ、事例のAさんのようにせっかく支払った高額な入居一時金や月額費用などが無駄になってしまうこともあり得ます。

 

セカンドライフを送る世帯は、体調の異変が起きてから考え始めるのではなく、できる限り早いうちから今後の住まいについて家族と相談しておくことが大切です。

 

 

伊藤 貴徳

伊藤FPオフィス

代表