平均寿命が延びるなか、高齢になってから結婚の話が出るというケースもあるようです。一度目の結婚であれば、当事者間だけの問題かもしれませんが、さまざまなライフステージを経たあとの結婚の場合、家族を巻き込んだトラブルに発展してしまうことも……。本記事では、Aさん事例とともに、高齢の親の再婚によって想定される「相続トラブル」について、CFPの伊藤貴徳氏が解説します。
「一緒のお墓に入ろう」人生最後の愛を勝ち取った年金月22万円の78歳・おひとりさま男性…幸せな余生が一転、苛烈な〈老人ホーム〉での三角関係の末路【CFPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

老人ホーム入居の父に「再婚」の話が…

「父が再婚する、と言ってきたんです。でも正直、戸惑っています」 

 

Aさんの長男からこんな相談がありました。話を聞くと、父のAさん(78歳)と、お相手のBさん(77歳)は、互いに同じ老人ホームで暮らしているとのこと。同じ老人ホーム内での恋愛、結婚は珍しい話ではありませんが、当事者同士だけの話ではないことが問題です。ときには、家族を巻き込む問題を起こしてしまうことも。 

 

Aさんは数年前から体調の変化により老人ホームに入所しています。長年連れ添った妻に先立たれたころから徐々に気持ちや体が衰えていったのでした。 

 

老人ホーム入所当時は塞ぎ込みがちだったAさんでしたが、そんなときにBさんが老人ホームへ入所してきました。Bさんとは年齢も1つしか変わらず、お互いに絵が趣味だったこともあり意気投合。加えて、Bさんにも夫に先立たれたという過去があったのでした。 

 

Bさんはハキハキとした明るい性格で、入所後またたく間にホームの人気者となりました。 

 

同じ境遇の仲というのは、お互いの距離をみるみるうちに縮めていくようで、Aさんは次第にBさんへ好意を寄せるようになります。Bさんもまんざらではなさそうでしたが、そんなBさんに好意を寄せる人は多く、食事やレクレーションのときにBさんと同じ席になりたがるライバルも多かったそうです。

 

特にCさん(74歳/男性)と熾烈なライバル争いを繰り広げたAさん。Bさんも、Aさんと一緒に食事をしたりレクレーションを楽しみたい気持ちはあったのですが、Cさんがその行く手を阻みます。 

 

しかし、Cさんの猛烈なアプローチをかいくぐり、BさんはAさんと心を通わすこととなります。決め手は、ある日の夕食の時間に話したお互いの境遇についてでした。 

 

最愛の夫、妻に先立たれた経験を持つ2人は死別後の寂しさ、辛さをお互い理解していました。言葉にしなくても、相手の気持ちがわかる、そんな関係性となったのです。これからは、お互いを支え合っていこうという気持ちへと変化するのにそう長い時間はかかりませんでした。 Aさんは「一緒のお墓に入ろう」とBさんと固く約束します。

 

しかし、盛り上がる2人をよそに、そのあいだに立ちはだかる壁は想像以上に大きいものだったのです。 

Aさん家族の相続問題

「Bさんという方と再婚したいんだ」 

 

Aさんは、定期的に面会にきてくれる息子達にそう伝えました。息子達は、あまりに突拍子もない一言に唖然としました。 

 

「再婚って、じゃあ父さんが住んでいた家とか、財産はどうするんだ?」 

 

「そのあたりは、予定どおりお前たちが持っていけばいいじゃないか」 

 

「いやいや、そんな簡単な話じゃないだろう……父さんが老人ホームに入るときに、俺と弟2人で今後のこの家のことについてあんなに話し合ったのに、振り出しかよ! あの時間はなんだったんだ……」