話し合いの結果EさんとYさんは離れ離れに…
話し合いは数時間におよび、結果として老人ホームでの居室を女性側に引っ越してもらうことになりました。階をわけて、顔を合わせないようにするのです。
「残念だけれど、望まれない恋愛は本人たちにもストレスでしょうから……」そう次女のSさんは言って、お付き合いを破談へと強行してしまいました。
相手女性のEさんが家族に説得されてYさんとの別れを決め、部屋を引っ越しました。失意のままEさんは3ヵ月後に亡くなってしまいます。
それを聞いたYさんもまた、体調を崩して一日中寝ていることが多くなり、Eさんが亡くなった半年後には亡くなりました。
「親不孝をしてしまったのだろうか」とYさんの長女のKさんは少し悩みました。なぜ人生の最後で結婚なんていう考え方をするようになったのだろうと冷静に考えることが増えました。認知機能が低下していたのか、それとも何か思いがあったのか。
葬式でYさんの弟が、長女Kさんにこう言いました。「兄貴は若いころに、親を喜ばせたくて学校の先生になって、安心させたくて結婚し、義父の期待に応えるために仕事を頑張って来たんだ。責任を背負って無理をしてきたのかもしれないね。人生の最後で肩の荷を下ろせるような相手を見つけたと思ったんだろう。反対したのは残酷だったかもしれないね」
それを聞いて心が引き裂かれるような思いをしましたが、双方の合計6人の子どもたちが混乱しなくて済んだのでこれでよかったのだと納得するようにしています。
子供世代が「高齢の親の再婚」を許せないワケ
高齢の親が再婚するときに、なぜ子供世代が猛反対することが多いのでしょうか。
事例にもあるようにまずは相続上の不都合です。富裕層の場合、相続対策として「相続税」と「遺産分割」の両方について、時間をかけて整備しているはずです。これを根底から覆す行為であるはずです。腹が立つのも当然でしょう。
また新しい「親」と養子縁組をしなければならないという問題もあります。養子縁組をしなくても構いませんが、実の親が亡くなり新しい親に財産が相続されたあと、新しい親が亡くなったあとでその相続財産は相手の子どもたちに渡ってしまいます。養子縁組をして法定相続人となっておく必要があるのですが、相手側の子どもは猛反対するでしょう。
このように実務上での大混乱があるので、反対するのも無理はありません。
では分割する遺産がわずかであれば、結婚は別に自由にしていいと思うかというと……そう思わない方が多いのが実情です。相続問題にはお金だけではなく、感情というウェットな問題も隠されているのです。
相続にも再婚にも関わる「感情」の問題
遺産分割とは単純に財産を受け取る割合の問題というだけではありません。「財産の割合と内容」が「親の愛情」とイコールとして捉えるケースが多々あります。
分割された遺産に納得がいかない場合、「親父はオレのことをなにも考えてくれていなかったのか」という気持ちに苛まれやすいのです。まるで親の愛情を奪い合うかのように遺産分割の争いをすることを、「争族」と呼ぶこともあります。これは金額の多寡だけではなく、親の愛情が自分にもちゃんと向いていたと思えるかどうかなのです。
実際、「家庭裁判所に持ち込まれた遺産分割事件のうち認容・調停成立件数」を調べてみると、遺産額が1,000万円以下の事件件数割合が33%を占めています。弁護士費用などを差し引くと裁判所に持ち込んで兄弟喧嘩をする金銭的なメリットは多くないはずなのに、です。
このような感情の問題は高齢の親が再婚しようとするときにも湧き上がってきます。
「親のままでいてくれないのか」
「なぜ子供のことよりも自分のことを優先するのか」
というワガママとも言える感情に、子供は囚われてしまいます。その感情が相続という利害と結びつくと、親の再婚を認める気持ちにはなりえません。
高齢の親の再婚による相続分割問題は、弁護士など専門家に相談することで対策が十分にできます。二次相続も同様です。さほど大きな問題にはなりません。
問題は子供世代の感情だけです。高齢の親の再婚問題が浮上するとき、子供の年齢は40代50代となっています。自分にも子供がいて、社会でも立場がある年齢になっているからこそ、親子の感情の問題はもっと複雑になりがちです。
長岡 理知
長岡FP事務所
代表