年収が高くてもなぜかカツカツの家計で暮らしている人たちがいます。一体なぜそのような事態となってしまうのでしょうか。なかには、放置しておくと家計破綻に陥るような深刻な問題を抱えている人もいて……。本記事ではAさんの事例とともに、買い物依存症の恐ろしさについて長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。
猛省しています…年収1,500万円の47歳内科医、エリート勝ち組人生のはずが「愛する子の教育費」も支払えない惨め【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

「買い物依存症」の恐怖

「買い物依存症」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。これは文字どおり買い物という行為に依存する心理状態のことです。年齢、性別に関係なく見られる症状で、買い物がしたくて我慢ができず、一日中その欲望が頭から離れない状態です。

 

たとえばスニーカー依存の症状がある場合、一足買った次の瞬間には新しいスニーカーのことを考えしまい、気が付くと自宅には100足、300足、1,000足と膨大な箱が積みあがってしまいます。

 

もちろんそれが「コレクター」「趣味」「転売目的」であれば違いますが、依存症になると「買っては激しく後悔するのに、やめられない」「買うこと自体が目的で、モノにはさほど執着しない」「買ったらクローゼットに押し込んで終わり」という矛盾を抱えた状態になってしまいます。

 

もはや物欲とは違う、一種の強迫性障害ともいえます。クレジットカードを使って買い物を繰り返し、返済ができなくなって自己破産、それでもやめられず万引きや窃盗など犯罪で得た金銭でまた買い物を繰り返す……そうなるとパーソナリティ障害や精神疾患を疑わざるをえません。

 

しかしこの買い物依存には医学的な診断基準が存在しません。DSM-5(米国の精神疾患の診断・統計マニュアル)やWHOのICD-10(国際疾病分類)には記載されていないのです。

 

しかしFPとして多くの家計を見ていると、アルコール依存や薬物依存と同じように人生を破壊しかねないこの買い物依存に悩む人が決して少なくなく、むしろ近年増えている印象があります。

 

今回は、買い物依存によって家計崩壊の危機に立たされているひとつの事例を紹介します。

エリート勝ち組の高年収のはずが…破綻の瀬戸際を綱渡り

<事例>

 

夫Aさん 47歳 勤務医 年収1,500万円

妻Bさん 42歳 専業主婦

子供 14歳

住宅ローン借入額 8,200万円

 

夫のAさんは勤務医として働いています。妻のBさんは専業主婦。収入だけを見るとなんの不自由もない、裕福な家庭に思えます。しかしこのAさん世帯、医師であるAさんの高い収入で毎月やりくりしているだけで、実のところ破綻の瀬戸際を綱渡りしている状態なのです。

 

「家を新築したい」とFPに相談

はじまりはAさんがFP事務所に「家を購入したいので資金相談に乗ってほしい」と依頼したことでした。家を購入したいが、若いころに購入した自宅があり、それを売却して住み替えたいというものです。それ自体は決してめずらしいことではありません。

 

Aさんが30歳のときに購入した戸建て住宅があり、住宅ローンの残高は3,900万円。17年前に購入した家で昨今よりも金利が高い時期でした。この自宅を売却するために査定を依頼すると、高くても2,000万円。売却すると約1,900万円のオーバーローンになります。そのオーバーローン分を清算する貯蓄はないため、銀行からいわゆる「住み替えローン」を借りて注文住宅を建てたいという希望でした。

 

残債を上乗せし、新しいローンの借入額は8,200万円。Aさんの年齢と年収から考えると借り入れは少々難しいように感じましたが、いくつか事前審査を出した金融機関のうち、ひとつから満額回答を得ました。審査が通過したのはいいものの、果たしてこの住宅ローンを返済することは可能なのか、AさんはFPに聞いてみたかったのです。

 

「家計的には少しぎりぎりかなと感じています。数年後には大事な一人息子が大学進学の時期です。私も親には教育にお金をかけてもらったから、息子にも同じようにしてやりたいですよ」

 

FPが計算結果を見せながら言います。

 

「これからの昇給と定年退職までの賃金、退職金を考えるならば、なんとか返済はできると思います。仮にこの計算どおりならご子息も大学進学はできるでしょう」

 

ほっとするAさんでしたが、FPの顔に懸念が浮かんでいます。

 

「Aさん、気になることが2点ほどあるのですが……」

 

FPは続けます。

 

「まず、Aさんほどの職業と年収の方が、現在貯蓄がゼロという点が気になります。もうひとつは、なぜ大きく損をしてまで住み替えをするのでしょうか」

 

これに対してAさんが答えます。

 

「貯蓄がない点は、これから相談していきたいと思っています。妻は専業主婦で金融リテラシーが乏しいし、私もどんぶり勘定なところがある。これから老後に向けてしっかり勉強させてください。あと建て替えのことですが、やはり古い建物で結露がひどいのです。子供の健康を考えるといまどきの高性能の家に住み替えるべきと判断しました」

 

よどみなく答える様子からFPは胸を撫でおろしました。Aさんに危険な兆候を感じ取ったのですが杞憂のようです。乗っている自動車は新型車ではあるものの平均的な価格の大衆車、腕時計はしていませんでした。派手なところはまったくなく、堅実な内科医という佇まいです。