暗号資産を利用したポンジスキーム
田丸さんが巻き込まれた投資詐欺は、いわゆる「ポンジスキーム」と呼ばれるものだったと考えられます。ポンジスキームとは、高い利回りを約束して新しい参加者から資金を集め、その資金を以前に投資した人たちに利益として支払う仕組みです。
ポンジスキームには、利益を生み出すようなビジネスの実態が存在しません。そのため、参加者に利益が支払われることもありますが、それは後から参加した人が出資した資金です。新たな参加者がいなくなれば破綻する仕組みであり、運営者は資金が最も多く集まったタイミングを見計らって姿をくらまします。
田丸さんが信じたプロジェクトはお金を集めるために詐欺師が考えた架空のもので、実際には何も動いていなかったはずです。チャットでこのプロジェクトについて宣伝していた人は、詐欺師の仲間、もしくは新しい投資家を勧誘することで報酬を得ようとしていた参加者だった可能性が高いでしょう。
田丸さんは、「もっと冷静に内容を確認していれば、プロジェクトが中身のないものだということが見抜けたと思います」と言います。暗号資産という慣れない仕組み、ビットコインの急激な高騰、そして大きな利益を逃した焦燥感といったことが重なって、彼はポンジスキームの罠にかかってしまったわけです。
暗号資産に関連する投資詐欺は多い
近年、暗号資産の法規制強化が進んでおり、安心して投資しやすい環境が整備されてきました。しかし、暗号資産は依然として、詐欺に利用されることが少なくないことが、弊社が実施した調査から明らかになっています。
以下のグラフ(図表1)は、過去1年間に投資詐欺との接触経験がある人に、どの投資が関連していたか質問した結果をまとめたものです。
暗号資産に関連する投資詐欺に接触した人の割合は26.7%で、FX(31.8%)や不動産(27.0%)に次いで3番目に多いというものでした。暗号資産は一般の人が理解するのが難しい複雑な仕組みも影響してか、投資詐欺に利用されやすい側面があると考えられます。
続いて、国民生活センターが公表しているPIO-NET(消費生活に関する苦情相談情報の収集を行っているシステム)における、暗号資産の相談件数の推移を見てみましょう。
これによると、暗号資産に関する相談件数は2020年に3,347件、2021年には6,379件と急増し、2022年も5,586件の相談が寄せられました。2023年に入ってからの計測時点で624件と、前年同時期の596件を上回るペースで増加しています。このデータからは、現在も暗号資産に関するトラブル・詐欺が数多く発生していることが読み取れます。
法規制が進み投資環境は整備されてきており、暗号資産自体が投資対象として妥当でないというわけではありません。しかし、違法な形で暗号資産を利用する詐欺が多いことも意識して、投資を検討する際には情報の真偽を慎重に見極めようとする姿勢がより重要となるでしょう。