億り人への焦燥感から手を出した「高利回り投資プログラム」
2017年は、「暗号資産元年」といわれます。少し前までは数万円程度の価値だったビットコインが一時200万円超にまで急騰し、暗号資産市場が大注目を浴びた年となりました。当時37歳だったITエンジニアの田丸小太郎さん(仮名)は、この流行に先駆けていち早くビットコインに興味を持っていた一人でした。
当時、暗号資産界隈では、数多くの億り人が誕生したことが話題になりました。しかし、田丸さんは慎重な性格が仇となり投資金額は少額、実際に得ることができた利益はわずか数十万円でした。立ち回り方次第ではもっと大きな利益を出すことができたはずの田丸さんは、焦りにも似た感情を抱いていたといいます。
そんな中、ビットコイン取引を扱うインターネット上のチャットで、「HYIP(High Yield Investment Program:高利回り投資プログラム)」に関するやりとりを見かけました。貼られたリンクをたどってサイトを見てみると、目に飛び込んできたのは「1ヵ月30%の利回り」という非現実的とも思えるキャッチコピー。
“新しいブロックチェーン技術を活用して、エコシステムの改善を目指す画期的なプロジェクト”ということで、専門家と称する人のお墨付きコメントが載っているなど、もっともらしい解説が並んでいます。「正直に言うと、分かったような気にはなるものの具体性がなく、何の話かよく理解できていませんでした」と話す田丸さん。しかし、今までに経験したことのない暗号資産の熱狂の中で、あり得る話かもしれないと感じてしまったそうです。
その後、田丸さんは期待を胸にこのサイトを通じて、プロジェクトが発行する独自通貨(トークン)を約100万円購入して出資することにしました。そして、最初の1ヵ月目に実際に口座残高が増え、利益分を出金することを確認。無事出金できたことで、田丸さんのプロジェクトに対する信頼は大きく高まり、夢が膨らんだと言います。
ところが、3ヵ月ほど経ったある日、突然サイトにアクセスできなくなりました。初めは単なる一時的なトラブルと思い、冷静を保とうと努めていた田丸さんですが、日が経つにつれ不安は募る一方。問い合わせようにも連絡の取りようがなく、彼は自分が陥った状況の深刻さに気づき始めます。
やがて田丸さんの焦りは絶望へと変わり、投資した100万円が戻ってこない現実に直面することになりました。「なぜもっと慎重に判断できなかったんだろう」と深い後悔も感じ、精神的ショックは金額以上に大きかったとのこと。こうして田丸さんの大きく膨らんだ夢は、あっけなく終わってしまったのです。