(※写真はイメージです/PIXTA)

離れて暮らす高齢の親を気にかけていても、コロナの流行で帰省を断念、今度は子どもの受験で断念……気が付けば実家に数年は帰っていない、なんてケースは少なくないでしょう。数年でそう変わらないだろうと思っていても、いざ実家に足を運んで驚愕するという人も。本記事では50歳長女Aさんの事例とともに、高齢親との関わり方について、FPオフィスツクル代表の内田英子氏が解説します。

預金残高激減の真相

2年ぶりの帰省で衝撃の事実に直面したAさんは、筆者のもとへご相談にいらっしゃいました。

 

お父様が娘への贈与を立て続けに行ったきっかけは、おそらくご自身だろうと考えられていました。というのも、Aさんには子どもが2人いましたが、以前帰省した際、長子の大学受験対策と末子の急な転校を機に、教育資金を自分たちでは賄いきれなくなったそうです。そこで、お父様に資金援助を相談したのだそうです。3人の娘がいる以上、お父様からすれば公平に資金援助を、と考えたのでしょう。

 

このところの相続税に関連する改正を踏まえ、生前贈与に関心を持たれている方は増えています。しかし、生前贈与をする前には、その効果を確認しておきたいところです。相続税対策が必要であれば生前贈与は有効な手段の1つと考えられますが、相続税には基礎控除額もありますから、相続税対策が必要な方はある程度限定されます。

 

Aさんのご実家の事情をお伺いしましたが、法定相続人が3人いますから、自宅不動産を含めても相続税対策は必要なかったことが推測されました。むしろ自宅はわけることができませんから、生前に売却されないのであれば、急いで生前贈与を行うよりも遺言書を作成したり、子どものうち1人が相続することなどを想定した相続財産の流動性の確保など、相続の仕方でもめないための対策が必要だったと思われます。

 

とはいえ、いまとなっては使ったお金は戻ってきません。幸いお父様の生活費は年金で賄えていますし、介護サービスが必要になっても、選べるものは限られてきますが、なんとかなりそうです。

 

ただ、まだまだ子どもの教育費もかかるAさんにとっては、将来の老後資金準備にも不安がありました。そこでライフプランシミュレーションを行い、Aさん自身の老後資金や子どもの教育資金も確保しつつ、父親の支援に拠出可能な金額の上限を算出し、父親へのサポート方法や介護保険サービスの利用を考えていくことにしました。

 

生前贈与をする際には事前に家族での「コミュニケーション」を

後日Aさんからご連絡をいただきました。お父様の認知機能もそれほど衰えていないことがわかり、今後はこまめにコミュニケーションをとりながら、姉妹で協力して帰省し、介護保険サービスの利用を検討していこうと話されているそうです。

 

お金のことはこれまで話せずにいたけれど、これを機に家族全員で話せてよかった、とおっしゃっていました。老後も必要になるお金はいくつかある一方で、年を重ねるとこれからの生活を独力で見通すことは難しくなります。また、見通せたとしても、すぐによりよい答えが見つけるものでもありません。

 

お金よりも大切なものはいくつもありますし、お金について話すことははばかられることも多いです。しかし、Aさんのように、お金について客観的に見て周囲と一緒に話すことができれば、ご本人の晩年をよりよいかたちで迎えられるような暮らしの適解に近づけることもできるのかもしれません。

 

 

内田 英子

FPオフィスツクル

代表

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