「自動車安全特別会計」から「約6,000億円」を「一般会計」へ流用
では、なぜ、積立金が枯渇するおそれが出てきたのでしょうか。その背景には、前述した「自動車安全特別会計」(積立金)から、約6,000億円が「一般会計」に流用されたまま返済されていないという問題があります。
国土交通省の自賠責保険の公式HPをみると、賦課金が新設された経緯について以下のように説明されています。
【国土交通省 自賠責保険公式HP「なぜ賦課金の新設が必要なのか」】
「被害者支援・事故防止対策は、自賠責保険料・共済掛金を原資とした運用益を活用した積立金を特別会計で管理し、対策を実施してきました。
しかしながら、低金利により、積立金から生じる運用益は減少し、毎年度の被害者支援・事故防止対策の事業費に充てるため、継続的に積立金の取崩しが発生しており、このままでは早ければ10年以内に枯渇する可能性があります。
過去に実施した特別会計から一般会計の繰入金の残高もありますが、一般会計の財政事情は厳しく、まとまった額の一般会計から特別会計への繰戻しを期待することは困難な状況です」
ここでは、賦課金新設の主因として、「低金利による積立金から生じる運用益の減少」が原因として「積立金の取崩しが発生」し、「積立金が早ければ10年以内に枯渇する可能性」があるためと説明されています。
それに加えて、「過去に実施した特別会計から一般会計の繰入金の残高」の問題も指摘しています。
実は、1994年と1995年に「税収不足」を理由として、「自動車安全特別会計」から「一般会計」へと総額約1兆1,200億円の貸し出しが行われました。そのうち、2022年末時点で約6,000億円が返済されていない状態なのです。
このままでは返済に「100年以上」かかる?
財務省は、国の財政事情が苦しいということを理由に、返済を先送りにしてきました。2018年から返済が再開されましたが、返済額は低く、2022年度も54億円にとどまっています。これは借入金総額約6,000億円の1%にも満たない額であり、このペースだと100年以上かかってしまう計算になります。
自賠責保険の保険料に新設された「賦課金」は、一般会計に貸し付けられた約6,000億円の返済を受けられないことによって、積立金が足りなくなる分を補う形になります。自動車ユーザーが財務省の借金を「賦課金」の徴収という形で「しわ寄せ」されているということです。
鈴木財務大臣は11月7日の記者会見で、以下のように述べていますが、返済額や返済期間の見通しについては明言していません。
「自動車安全特別会計に対する一般会計からの繰戻しにつきましては、国土交通大臣との合意によりまして、令和4年度の繰戻額の水準、54億円でありましたが、これを踏まえること、繰戻しに継続的に取り組むことなどとされております」
「財務省としては、財政事情が厳しい中におきましても、減税の実施の如何にかかわらず、大臣間での合意に基づいて、一般会計からの繰戻しを着実に進めていきたいと、そのように考えております」
国の財政事情が厳しいなか、返済への道筋を立てるのが困難であることがうかがわれます。しかし、交通事故被害者救済のために使われるべき財源が、本来の制度目的と無関係な用途に貸し出されているという状態が長く続くことは、被害者救済という趣旨から問題があるだけでなく、国の財政規律という点からも問題があります。
さらに、自賠責保険の存在意義についてはそもそも以前から問題点が指摘されています。それは、自賠責保険の制度が存在することを理由に任意保険に加入しない人がおり、かえって被害者救済の支障になっているのではないかということです。損害保険料算出機構「自動車保険の概況(2022年度)」によると、2022年3月末時点の任意保険の「対人賠償保険」「対物賠償保険」の日本全国における加入率は「対人賠償保険」が75.4%、「対物賠償保険」が75.5%であり、ほぼ4人に1人が任意保険に加入していないという実態があります。
これらの問題は、いずれも、交通事故の被害者救済という自賠責保険の本来の存在意義にかかわるものです。今後、交通事故の被害者をどのように救済していくのか、財政規律のみならず、自賠責保険のあり方や制度設計が問われています。
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