自賠責保険が切れていた場合、任意保険は使えるか?
では、自賠責保険が切れていた場合、任意保険は使えるのでしょうか。任意保険に加入する場合には車検証が必要なので、車検切れの状態で任意保険に加入することは不可能です。しかし、自賠責保険の契約期間と任意保険の契約期間がズレていることにより、車検期間・自賠責保険が切れている状態で、任意保険の期間が残っていることがありえます。
その状態で事故を起こして人を死傷させた場合、任意保険が使えるのか、という問題です。
この点について、これまで2,000件を超える交通事故事案を担当した荒川香遥弁護士(弁護士法人ダーウィン法律事務所 代表)に聞きました。
【荒川香遥弁護士】
「多くの自動車保険の約款では、車検切れが明確に『保険金を支払わない事由』として列挙されてはいません。また、『保険金を支払わない事由』として、『故意又は重過失』の場合が挙げられていますが、この故意又は重過失は、あくまでも事故発生にかかわるものに限られます。
損害保険会社によって解釈が異なる可能性はありますが、無車検車を運転していたからといって、それが直ちに重過失に結びつくわけではありません。したがって、基本的に、任意保険は使えると考えてよいでしょう。
ただし、任意保険が使えるとしても、無車検で自賠責保険も切れている場合、人身事故を起こして損害賠償責任を負えば、任意保険がカバーする賠償金の額は
『全体の損害額-自賠責保険によって支払われる金額』
ということになります。したがって、本来ならば自賠責保険から支払われるはずだった分を自己負担しなければなりません。たとえば、人を死なせてしまい、被害者に対する損害賠償額が1億円だったとすると、自賠責保険の限度額の3,000万円はカバーされないので、その3,000万円を自己負担しなければならないということです。
なお、対物事故についても補足しておきます。自賠責保険は人身事故の場合のみが対象なので、対物保険の場合には、無車検であっても任意保険で全額支払われる可能性はあります」
無車検車で人身事故を起こした場合、任意保険は使えるものの、自賠責保険がカバーする部分については自己負担しなければならないということです。
もし、人身事故を起こして多額の賠償責任を負った場合、加害者に自賠責保険の保険金相当額(最大4,000万円)を負担する資力がなければ、被害者がろくに救済を受けられないことになりかねません。
交通事故の被害者ないしその遺族は、法律上の損害賠償請求権を持っていても、加害者に資力がなければ強制執行もできません。そうなれば、被害者が経済的に困窮することになってしまうのです。
「車検切れ」≒「自賠責保険の満期切れ」の状態で公道を走行することはきわめて危険な行為であるといえます。