前回は、不動産の基礎資料の収集と初期段階の活用法について解説しました。今回は、資料を収集した後の「実際の調査」に関するポイントを見ていきます。

役所は「聞かれた内容」の「担当範囲」しか答えない

資料入手の必要があるのは現地調査の準備段階だけではありません。実際に不動産を目で確かめてみて「あれ? ここはどうなっているのだろう?」というものが出てきたときに、さらなる資料が必要になることも多々あります。


資料の入手先は主に役所ですが、役所の担当者は総じて「質問されたことにだけ答える」「自分のところ以外の部局に関連することは言わない(=自分の仕事に関係のないことは言わない)」「面倒なことは避けたい」という傾向が強いものです。もちろん中には懇切丁寧にいろいろ教えてくださる担当者もいますが、ほとんどの場合、「聞いたことにしか答えてもらえない」と言ってよいでしょう。


筆者がいつも不動産調査のセミナーで受講生の方にお話しするのは、「役所の担当者は聞かれたことにしか答えない、しかもその答えは自分のセクションに属することに限られている、ということを念頭に置いてください」ということです。


ですから、調査対象の土地について、必要不可欠な書類を迅速に用意できるかどうかは、調査にあたる人間の腕次第と言っても過言ではありません。自分のほうからどんどん質問して役所側が持っているものを引き出していく姿勢がないと、決して目的には到達できないのです。そうしないとお金と時間ばかりかかって、いつまでたっても問題が解決しないばかりか、何が問題なのかそれすらわからない、ということになりかねません。

不動産の適切な評価には綿密な調査が必要不可欠

調査員に必要なのは「一つの事象から連鎖的な発想をする力」と「粘り強く、諦めず、貪欲に取り組む姿勢」です。たとえば、調査対象の土地が河川に沿った道路に面しているとしましょう。そんなとき、筆者はこういう連想をします。


「この道路は道路法による道路ではないかもしれない」

 ・・・道路課で確認したところ、道路認定されていないことが判明。
        ↓
「だとしたら、この道路は河川管理道路かもしれない」

 ・・・河川課で確認したところ、河川管理道路だということが判明。
        ↓
「建築基準法上でも道路として扱われるかもしれない」

 ・・・建築課で確認したところ、建築基準法上の道路として扱われることが判明。


いかがでしょうか。これはあくまでも一例ではありますが、「河川に沿った道路に面した土地」というただ一つの事象が、類推して調査することによってさまざまな要素を持っていることがわかるのです。


土地の的確な評価は、このようにいろいろな角度から調べることで初めて可能になります。そのため調査員には出向いた役所で、疑問に思ったことはとことん質問を重ねて、納得がいくまで追求する姿勢が求められます。調査に関する資料について「もらえるものは何でももらう」といった貪欲な姿勢も欠かせません。


今、みなさんが相続対策をお願いしている先生は、果たしてそのように動いていただけているでしょうか? 不動産の適切な評価には、綿密な調査が必要不可欠だということを認識し、それを実践してくれているでしょうか?


一度、不動産の調査をどのように行っているか、尋ねてみてください。本当に不動産調査のことをよくわかっている専門家であれば、これまでお話ししたような基礎資料を準備した上で調査に入っていくはずです。


こちらからの問いかけに対して、納得のいく答えが得られれば信頼してお任せできますが、ここで答えに詰まるようなら本当に何もかも託していいのかどうか、考えてみたほうがいいかもしれません。不動産の調査は非常に複雑で高度な専門的知識と経験に裏打ちされた能力が必要とされるものです。


それがあってこそ初めて不動産の適正な評価が可能になり、お客様にとって最も有利な不動産の活用法や相続税の納税資金の準備の仕方が提案できるのです。「専門家だから大丈夫」と安心しきることなく、その「専門家」が本当にご自分の力になってくれるのかどうか、しっかりと見極めるようにしてください。

本連載は、2013年11月1日刊行の書籍『相続トラブルの99%は不動産が原因』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

相続トラブルの 99%は不動産が原因

相続トラブルの 99%は不動産が原因

澁谷 一夫

幻冬舎メディアコンサルティング

親から受け継いだ財産を、よりよい形で次の世代に残す。それが相続本来の目的であるはず。 しかし、自身の財産、とくに不動産のことをよく知らないがため、相続人の間で財産を奪い合う。また、無理な対策を行い、財産を不良資…

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