大企業なら約2,000万円、中小企業なら約1,000万円ともいわれる退職金。その使い道として大半の人が「貯蓄」を選択していますが、「住宅ローンの返済」に充てる人も少なくありません。昨今の晩婚化の影響もあり、住宅の購入年齢も後ズレしていることから、今後は定年退職時点でも相当額の住宅ローンが残っている、というケースが増えることが予想されますが、退職金の大部分を住宅ローン返済に充てるという選択はアリなのでしょうか。詳しくみていきます。
60歳・元中小企業サラリーマン、勤続38年の末に得た「退職金1,000万円」…〈住宅ローン返済〉に充てる選択はアリか? (※写真はイメージです/PIXTA)

退職金でローン完済も…一難去ってまた一難

勤め先によっては2,000万円超に上ることもある退職金。勤続38年、荒波に揉まれながら波乱万丈のサラリーマン生活を戦い抜いた甲斐があるというものです。ただこの退職金を老後資金に回すことなく、住宅ローンの完済するために使い果たしてしまうケースも少なくないようです。

 

国土交通省『令和4年度住宅市場動向調査』によると、分譲マンション購入者の平均年齢はおおよそ40歳。およそ3,600万円・30年の住宅ローンを利用しています。金利0.5%・元利均等返済だとすると、60歳定年時点での残債は単純計算で1,200万円超に上ります。

 

【分譲マンション「購入者・物件」の平均像】

世帯主年齢:39.9歳(一次取得者)

世帯年収:923万円(一次取得者)

購入資金:5,048万円

借入金:3,610万円

返済期間:29.7年

年間返済額:148万1,000円

 

出所:国土交通省『令和4年度住宅市場動向調査』より

 

以前は住宅購入時の平均年齢はもっと若く、つまり退職時のローン残債も少なかったため、退職金を返済に充てたとしても、手元にはそれなりの金額が残りました。しかし、昨今の晩婚化の影響もあって住宅購入年齢は後ズレしており、今後は上記のように定年退職時点でも相当額のローン残債を抱えているケースが増えるでしょう。

 

中小企業サラリーマンは、退職金のすべてを返済に充ててもまだ返しきれず、大企業サラリーマンも完済しようと思えば退職金の手残りは数百万円。現役時代にはローン返済や子どもの教育費といった出費が嵩んで十分な貯蓄ができず、「老後は年金だけが頼り」という世帯は、住宅ローン完済後の貯蓄残高をみて「たったこれだけ?」と不安を募らせることになるかもしれません。

 

厚生労働省の調査によると、元会社員の男性が65歳から手にする平均年金額は17万円ほど。妻が専業主婦なら、国民年金は満額で年77万7,792円(2022年度)ですから、夫婦で受け取る年金額は月あたり23万円ほどになります。

 

総務省『家計調査』をみると、無職の高齢夫婦(65歳以上)の消費支出は月あたり21万~23万円程度。税金や保険料などをプラスした実支出は25万~26万円程度ですから、「会社員の夫+専業主婦の妻」という世帯では、毎月赤字が発生する計算です。共働き夫婦の場合は贅沢をしなければ若干の黒字も見込めますが、年齢を重ねている分、医療・介護に関して突発的な出費が発生するリスクは高まっており、油断はできません。

 

将来に向けて年金が減額になることも十分に想定されますから、住宅ローンについては現役時代に繰上返済などを行いながら、退職金に手を付けることなく完済できるようプランニングすることが重要です。