年金の受け取りを65歳より遅らせることで、受取額を増やすことができる「年金の繰り下げ受給」。しかし、実際に制度を活用している人は50人に1人だとか。一見、お得に見える制度のネガティブな一面をみていきます。
「年金、2倍になりますよ」につられて…65歳で年金17万円だった男性、75歳で手にする「衝撃の受取額」 (※写真はイメージです/PIXTA)

元会社員で50人に1人…「年金の繰り下げ受給」に躊躇する理由

ーー年金が2倍になるんだったら、みんな繰り下げればいいのに

 

ポジティブな人はそう考えるでしょうか。しかし年金の繰り下げ受給にはデメリットもあり、なかなか踏み切れないという現実も。

 

まずはなんといっても「繰り下げ途中に何かあったら、年金をもらい損ねることになる」ということ。年を重ねれば、それだけ健康リスクが高まります。「年金をもらいながら悠々自適な暮らしをするんだ!」と年金を繰り下げていたのに、身体が不自由になっては、そんな夢も叶わない……「それなら早く年金をもらっておけば良かった」というわけです。

 

また年金が増額となっても、長生きしなければ受取総額はプラスにならないという視点も、繰り下げ受給の活用を拒む大きな理由のひとつ。最悪、年金を繰り下げている途中に亡くなるという可能性もゼロではないでしょう。それであれば、65歳で受け取りを開始したほうが安全、というわけです。

 

さらに、老齢厚生年金の繰下げ期間中は「加給年金」がもらえなくなるというデメリットもあります。

 

加給年金とは、厚生年金保険の加入期間が原則20年以上あり、扶養している65歳未満の配偶者または18歳未満の子がいる場合に、老齢厚生年金に上乗せされる加入年金が、老齢厚生年金の繰り下げ期間中はもらえない、というデメリットも。扶養している人がいるなら、加給年金をもらったほうが年金額の総額が多くなる可能性があります。

 

このようなリスク、デメリットを考慮したうえで、「よし、おれは年金を75歳で受け取るぞ!」と意気込む65歳の男性。それから10年後、いよいよ、約2倍になった年金を受け取るとき……しかし、受け取った年金にちょっとした違和感を覚えるケースも。

 

ーーあれっ、なんか思ったよりも少ないぞ

 

そう感じたなら、もしかしたら、年金に税金をかかることを考えていなかった可能性があります。年金は雑所得。当然、所得税や住民税がかかります。また高齢者であっても、健康保険などの社会保険料を支払います。よくいわれる年金額はいわゆる額面であり、手取り額はもっと少ないことを考慮しておく必要があります。