元気に定年まで勤め、リタイア後は夫婦で仲良く、のんびりと暮らしたい……そう考えている人も多いでしょう。しかし、FP Office株式会社の梅田雅美FPは、十分な年金と老後の蓄えがあったとしても、ささいなきっかけで「思い描いていた老後生活」が崩壊してしまうといいます。具体的な事例を交えて詳しくみていきましょう。
年金「月29万円」都内在住の73歳男性、要介護の妻を〈有料老人ホーム〉へ…事情を知った44歳娘“大激怒”のワケ【FPが解説】  (※写真はイメージです/PIXTA)

毎月6万円の赤字…貯蓄は足りるのか?

平均寿命と平均余命

2023年7月28日、厚生労働省が発表した令和4年簡易生命表によると、令和4年の男性の平均寿命は81.05年、女性の平均寿命は87.09年でした。また70歳の平均余命は男性で15.56年、女性で19.98年となっています。

 

ご夫婦がB子さんの平均余命である90歳まで生活したとすると

 

毎月の不足6万円×12か月=72万円

72万円×(90歳―70歳)=1,440万円

 

現在の貯蓄2,500万円―670万円(入居費用)=1,830万円

1,830万円―1,440万円=390万円

 

90歳時の残金=390万円

 

なんとか足りそうですが、これ以上の出費があると生活が心配な領域です。

B子さんの「子どもに心配をかけたくない」が裏目に

老人ホームへ通うことにも慣れたAさんのもとに、娘から「今年の年末年始は久々に孫を連れて帰るよ」と電話がありました。そこで、どうせ帰ってくるなら伝えておこうとB子さんの話をしたところ、「なんで相談してくれなかったの!」と電話口でもわかるほど激怒されました。

 

Aさんが「黙っていて悪かった。心配させたくなかったから」となだめても、娘の怒りは一向に収まりません。しかも、娘が聞いてくるのは母親の容態ではなく、有料老人ホームにかかった費用や月々の支出、資産状況のことばかりでした。Aさんは「娘は俺たちの遺産にしか興味がないのか……」とひどく傷つき、電話を切ったそうです。

 

後日、帰省した娘としっかり話したところ、16歳と14歳になる2人の子どもの部活動や塾、その他の習いごとといった教育費に家計が圧迫されており、内心では贈与や相続財産を期待していた、と白状されました。

 

娘いわく、母B子さんの状態ももちろん心配でしたが、正直「当てが外れた」というショックが大きかったため、ついきつい口調でAさんに怒鳴ってしまったそうです。涙ながらに謝る娘をみたAさんは、思わず「少し前まであんなに幸せだったのに。なんでこんなことに……」と、力なくつぶやきました。