私的年金制度のひとつであるiDeCoは、毎月の掛金が全額所得控除されるほか、運用中の利息・運用益は非課税、受取時も税制優遇があるなど、将来に向けた資産形成の「心強い味方」です。しかし、注意点も含めてよく理解せず、安易に加入してしまうと、家計を圧迫する危険性があると、FP Office株式会社の志村哲司FPはいいます。具体的な事例を交えて詳しくみていきましょう。
同僚もやっているし…世帯年収655万円の30代夫婦〈iDeCo〉きっかけで「家計崩壊」のワケ【FP が警告】 (※写真はイメージです/PIXTA)

iDeCo加入者「300万人」突破!

2002年1月にアメリカの「401k制度」を見本に制度が施行されて以来、わが国のiDeCoの加入者数は鳴かず飛ばずの状態が続いていた。しかし、2017年1月に加入対象者を企業年金加入者や公務員、専業主婦等(第3号被保険者)まで拡大すると、その加入者は急拡大。2023年7月末時点で302.6万人に達した。

 

加入者の内訳をみると、会社員・公務員等(第2号被保険者以下、「会社員等」)が約256万人で、全体の85%と大部分を占めている。これには2つの要因が考えられる。

 

1つは、毎月定額投資をしていくiDeCoの仕組みが、毎月安定収入を得やすい会社員等の特性にマッチしたこと。もう1つは、自営業者と比べて納税のコントロール幅に限界のある会社員等に、iDeCoの「節税効果」のメリットが深く刺さったのであろう。

 

豊かな老後の実現と節税効果、まさに「一石二鳥」のiDeCo。しかし、安易で計画性のないiDeCo加入が〈家計崩壊〉のきっかけとなるケースもあるという。

 

会社の同僚もやっているから…“なんとなく良さそう”でiDeCoに加入したAさんだったが

ある相談事例でみていこう。

 

Aさん(38歳)は中堅樹脂メーカーに勤務する会社員。妻(35歳)、長男(2歳)の3人家族だ。2年前に総額4,000万円の住宅ローンを組み、東京郊外に中古分譲マンションを購入。購入当時のAさん世帯の額面年収は655万円(夫:550万円、妻:105万円)。住宅ローンは夫名義で、返済は月々12万円、返済期間は30年間。

 

住宅ローンの返済比率(年間返済額÷年収)は26%とやや高め(一般的に20%~25%以内が無難と言われている)だったが、ローン審査は無事に通った。

 

夫婦2人分の手取り月収は36万円(ボーナス除く)。対して住宅ローンも含めた月間支出は27万円、家計収支も黒字であった。

 

マンション購入の翌年には長男(第一子)が誕生し、周りからも祝福され、夫はこれからより一層仕事に邁進しようと決意していた。

 

そんなある日、Aさんの勤務先でiDeCo加入を勧める書類が回ってきた。これまでまったく関心がなかったが、子どもも産まれたことで「将来に向けた資産形成」につい考え始めていた。

 

「子どもも産まれたし、そろそろ将来のためにお金を貯めないとな……職場の同僚もみんなやっているみたいだし、メディアでもよく取り上げられているから安心だろう。なんといっても節税にもなるのはオイシイな」

 

Aさんは投資に関してはまったくと言ってほど知識はなかった。にもかかわらず、iDeCoの制度について詳しく調べることもなく加入を決断。月2万円の掛金積立てがスタートした。

 

この時点では幸せな家族を絵に描いたようなAさん一家であったが、この後一家にいくつかの転機が訪れる。