元気に定年まで勤め、リタイア後は夫婦で仲良く、のんびりと暮らしたい……そう考えている人も多いでしょう。しかし、FP Office株式会社の梅田雅美FPは、十分な年金と老後の蓄えがあったとしても、ささいなきっかけで「思い描いていた老後生活」が崩壊してしまうといいます。具体的な事例を交えて詳しくみていきましょう。
年金「月29万円」都内在住の73歳男性、要介護の妻を〈有料老人ホーム〉へ…事情を知った44歳娘“大激怒”のワケ【FPが解説】  (※写真はイメージです/PIXTA)

上場企業で部長まで出世し…順風満帆な人生だったが

上場企業の部長を勤め、60歳で定年退職した73歳のAさん。3歳年下の妻B子さんとは、近所でも有名なおしどり夫婦です。Aさんが29歳、B子さんが26歳の頃に生まれたひとり娘は転勤族の夫と結婚し、いまは北海道で暮らしています。

 

都内の自宅でB子さんと2人気ままに暮らすAさん。専業主婦として家を支えてくれたB子さんに恩返しがしたいと、Aさんが定年退職してからは2人で国内外へ旅行に行くなど、悠々自適なセカンドライフを満喫しています。

 

Aさんが70歳になって以降、海外旅行などの大きな支出は落ち着いたものの、Aさんの退職時に4,500万円ほどあった貯金は、13年で2,500万円まで減少しています。

 

そんなある日、B子さんがいつものように洗濯物を干そうとしていたとき、家の階段を踏み外し、転倒してしまいました。命に別状はなかったものの、Bさんはこの転倒がきっかけで歩行困難となりました。これにより、夫婦の生活は変化を余儀なくされます。

 

要介護2と認定されたB子さんのため、買い物に掃除、洗濯をおこなうなど献身的に介護をしていたAさんでしたが、慣れない家事に加えて、73歳と70歳の「老々介護」であったため、徐々に疲労が蓄積……結局2ヵ月ともちませんでした。

 

日本で問題となっている「老々介護」の状況

厚生労働省の調査では、5割強の人が主な介護者は同居の親族と答えています。内訳をみると、「配偶者」が23.8%、「子」が20.7%、「子の配偶者」が7.5%と続きます。

 

同居している主な介護者の年齢分布をみると、「60~69歳」30.6%、「70~79歳」26.5%、「80歳以上」16.2%と、60歳以上が7割以上となっており、高齢者が高齢者を介護する「老老介護」の多さがうかがえます。

 

出典・引用:生命保険文化センター
[図表1]同居している介護者の年齢分布 出典・引用:生命保険文化センター

愛する妻に快適な暮らしを…Aさんが下した「有料老人ホーム」という選択

このままでは自分も倒れてしまいそうで、B子のためにはならないと判断したAさん。

 

ふたりで話し合い「子どもに心配をかけたくない」というB子さんの意見も尊重して、娘には相談せずB子さんは有料老人ホームに入居します。

 

幸い、自宅近くに新しい有料老人ホームがあり、すぐに入居が出来て一安心。しかし、都内ということもあり入居費用に670万円かかりました。

 

加えて、B子さんの入居費用と、自宅でのAさんの生活費を足すと、およそ35万円かかることが判明。A夫妻の年金受給額は手取り月29万円ほどであったため、毎月6万円ほどの赤字です。

 

年金はだけでは足りず、貯蓄を切り崩す生活となったAさんでしたが、この6万円は「安心料」だと考えることにしたそうです。