厚生労働省の調査により、職場で虐待を受けた障害者が昨年から30%増えたことがわかりました。近年は減少傾向にあったのに、何があったのでしょうか。みていきましょう。
平均月収31万円「福祉・介護職員」による「障害者への虐待」大幅増、意外な理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

障害者への「経済的虐待」全体の8割を占める

先週、厚生労働省から公表された『令和4年度使用者による障害者虐待の状況等』によると、通報・届出のあった事業所数*1は1,230事業所、また虐待が認められた事業所数は430事業所でした。また虐待が認められた障害者*2数は656人で、前年から30.7%と大幅増。近年、障害者への虐待は減少傾向にありましたが、昨年は増加に転じました。

 

*1:事業所数は、通報・届出の時期、内容が異なる場合には、重複計上している

*2:身体障害、知的障害、精神障害(発達障害含む)その他心身の機能の障害がある者であって、障害および社会的障壁により継続的に日常生活または社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの。(障害者基本法第2条第1号)としており、障害者手帳を取得していない場合も含まれる

 

障害種別にみていくと、虐待で多いのが「精神障害者」へのもので35.8%。「知的障害」29.6%、「身体障害」22.9%と続きます。また虐待種別にみていくと、最も多いのが「経済的虐待」で48.0%。「心理的虐待」37.0%、「身体的虐待」8.8%と続きます。ただひとりの被虐待者に複数の虐待が認められた場合は重複計上しているため、「経済的虐待を受けた人」に限ると600人と、実に虐待を受けている障害者の8割にものぼります。

 

「障害者への経済的虐待」と聞いても、どのようなものかイメージがわかない人がほとんどでしょう。たとえば、就労施設での賃金の未払いだったり、最低賃金を下回る賃金しか支払わなかったり。障害者の場合、このような事案は「経済的虐待」とされ、近年増加傾向にあるとされています。厚生労働省では、コロナ禍からの回復で労働時間が増加する一方で、最低賃金を下回る支払いや時間外労働への割増賃金の不払いなどが増加したとしています。

 

障害者も働いている以上は、私たちと同じ労働者。「残業が増えれば残業代を払う」は当然の流れでであり、法令順守は当たり前。「障害者だから」と軽視する傾向が、どこかにあるのかもしれません。

 

【虐待の定義(障害者虐待の防止法第2条第8項第1号~第5号)】

◆身体的虐待

障害者の身体に外傷が生じ、若しくは生じるおそれのある暴行を加え、または正当な理由なく障害者の身体を拘束すること

◆性的虐待

障害者にわいせつな行為をすることまたは障害者をしてわいせつな行為をさせること

◆心理的虐待

障害者に対する著しい暴言、著しく拒絶的な対応または不当な差別的言動その他の障害者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと

◆放置等による虐待

障害者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置、当該事業所に使用される他の労働者による上記3つの虐待行為と同様の行為の放置その他これらに準ずる行為を行うこと

◆経済的虐待

障害者の財産を不当に処分することその他障害者から不当に財産上の利益を得ること。