年金受取額を増やす方法として知られる、「年金の繰下げ受給」の制度。本来65歳で受け取れる年金が、最大1.84倍にもなりますが、うまい話だけではありません。みていきましょう。
「長生きしようねって言ったじゃない」愛する夫〈享年68歳〉年金待機中に…泣き崩れる妻 (※写真はイメージです/PIXTA)

年金が増額される…夫婦でワクワクしていたが夫が急逝、年金の繰下げ効果はどこに⁉

前述の通り、昨今は定年後も働くのがトレンド。さらに高年齢者雇用安定法の改正で、企業は70歳までの定年年齢の引上げや、定年制の廃止、70歳までの継続雇用制度の導入など、いずれかの対応をしなければなりません。つまり希望によっては70歳まで安心して働ける時代が、もうすぐそこまで迫っているのです。そうなると、当面は毎月の給料で生活、年金は繰り下げて少しでも受取額を増やそうとする人も多くなるでしょう。

 

厚生労働省『令和4年簡易生命表』によると、65歳時点の平均余命は男性で19.44年、女性で24.30年。これだけの老後があるなら、働けるうちは働き、少しでも年金を増やそうと考えるのも自然なこと。仮に5年、70歳で年金を受け取るようにしたら、42%の増額。65歳で月15万円の年金は月21.3万円になり、さらに老後は余裕なものに。

 

受け取るタイミングを先送りにしていくたびに年金が増えていく……少しウキウキ気分になれるのも、繰下げ受給のいいところ。

 

――長生きしような

 

夫婦でそんな会話をしながら、年金受給開始後の悠々自適な生活に想いを馳せる。しかし、未来に絶対などありません。年金繰下げ中の夫、享年68歳……そんな未来も考えられるわけです。

 

――長生きしようって言っていたじゃない

 

涙に暮れる妻。

 

そのとき「繰下げ受給していたんだから、年金は増えるのかしら」と心をよぎったとします。しかし「繰下げ請求は、遺族が代わって行うことはできません。 繰下げ待機中に亡くなった場合で、遺族の方からの未支給年金の請求が可能な場合は、65歳時点の年金額で決定したうえで、過去分の年金額が一括して未支給年金として支払われます。 ただし、請求した時点から5年以上前の年金は時効により受け取れなくなります。」と日本年金機構。

 

65歳で15万円の年金を受け取るはずだった夫。68歳0ヵ月で年金の受け取りを開始していれば、25.2%アップの月18万7,800円の年金がもらえるはずでした。しかしそれが叶うのは本人だけ。妻は月15万円、その3年分を未支給年金として請求することはできます。また未支給年金については「5年以上前の年金は時効」という点も注意。つまり71歳で亡くなった場合は、66歳以降の増額なしの年金だけが請求できることになります。

 

ちなみに年金を繰り下げた人が亡くなった場合の遺族厚生年金の金額は、本来の額、つまり65歳から受け取った場合の額を基に算出されます。65歳時点で年金月15万円の夫が亡くなったのであれば、厚生年金の部分の4分の3、6.7万円程度が遺族厚生年金として受け取ることができます。

 

世の中、うまい話はない、とはいいますが、年金の繰下げ受給も同じ。受け取り前に亡くなってしまっては、遺族すら繰下げ効果を実感することはできません。このようなリスクもしっかりと考えたうえで検討する必要があります。