長寿化や高齢化の進展で、避けては通れない介護問題。介護する側もされる側もさまざまな問題を抱えていますが、最近は介護サービスも充実し、双方の負担を大きく軽減させることができるようになりました。一方で、手を貸してもらいたくても経済的な理由から最適な介護サービスを利用できない人もいるようで……。本記事では、Aさんの事例とともに認知症患者の介護の実態について、CFPの伊藤貴徳氏が解説します。
年金月13万円の88歳母を〈10年間壮絶介護・総費用600万円〉…「やっと死んでくれた」精魂尽きた55歳長女の悲しすぎる涙【CFPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

在宅介護のはじまり…介護費用は総額600万円

週に4〜5日、昼にホームヘルパーさんに来てもらい、食事やトイレ、入浴などの世話をしてもらいました。ケアマネージャーさんにプランを作成してもらい、自己負担は在宅介護で月3〜4万円ほどでした。

 

特別養護施設への入所も検討したのですが、私たちの住んでいる地域では、すでに入所を待機している方もいて、施設への入所は断念しました。有料老人ホームは、母が受け取っている年金が月13万円ほどなので、資金的に厳しいと思い検討を断念しました。

 

母にはもともと貯金が30万円ほどしかなく、その貯金も、玄関、風呂場、トイレなどに手すりを設置したり、家中のドアをスライド式に改修したり、私が仕事で家にいないときでも状況を確認できる見守りカメラの設置などで使い切りました。介護のための家の改修費は100万円程度かかったので、足りない分は私が補填しました。いま振り返ると、介護費用は600万円くらいかかったと思います。介護費用が月4万円を10年間……およそ500万円、リフォーム代が100万円程度です。

 

日中の母の世話はヘルパーさんにしていただき、ことなきを得ましたが、問題は夜でした。夜中に奇声を発したり、突然起こされて夕飯の支度をしてくれ、自分の住んでる家に帰してくれとせがまれたり……。初めはなんとか耐えていましたが、これが頻繁に続いたことで、本当に気が変になりそうでした。

 

当時の私の睡眠時間は平均3〜4時間だったと思います。認知症の症状が出ているときって、母の場合はまったく寝ないんですよね。ずっと喋っていたり、動き回っているんです。ただ、普通の会話ができるときもあるので、そのときが唯一、母と繋がっていられる時間です。これまでの感謝の気持ちを伝えることができる時間です。その数少ない時間をできるだけ母と共有したいと思っていました。そのあとは「あなた誰?」となってしまいますから……。

 

そんななかでも、仕事だけは続けました。介護が大変で、離職せざるを得ないという方も多いと聞きますが、私はなんとか仕事だけは辞めないで介護と両立させていこうと思っていました。離職をすることで、母と2人っきりでの生活で社会から切り離されてしまうという不安感もありましたし、なにより働かないと私の老後も危ういので。私も母と同じ独り身ということで、自分の将来のこともふと考えることがあります。しかし、そんなことを深く考える余裕はとてもなかったので、目の前のことを必死でこなしていると、気づけば1日が過ぎている、そんな日々でした。

コロナの外出自粛、母の容体急変…つきっきりの介護生活

母の容体が変化したのは、コロナが蔓延し出した2020年ごろからでした。その前まではかろうじて自分で歩き、付き添いながらも外出ができていたのですが、緊急事態宣言や外出自粛の流れによって、一切外に出ることができなくなってしまいました。

 

人は歩けなくなると、みるみる衰弱するのだなと改めて感じました。そのころから母はベッドから起き上がることすら厳しい状態となってしまいました。そのころには、生活の世話の大部分は私が行っていました。もちろん、ホームヘルパーさんの力も借りながらでしたが。排泄の処理、床ずれを起こさないよう数時間おきに体の向きを変え、食事を作り、口に運ぶ……。このころのことは正直、あまり記憶がありません。1日1日を過ごすのがやっとでしたから。

 

2022年に、母は息を引き取りました。88歳でした。妹から労いの言葉をかけてもらったとき、初めて涙が溢れました。母が旅立ち、悲しい反面、ほっとしたと思ってしまった自分が情けなくて、許せないです。

 

介護は、私の想像を絶するものでした。心が折れそうになったときは、元気だったころの母の顔を思い出し奮い立たせてきましたが、結局は最後に残った母への気持ちが黒くて悲しいもので、本当にただただ悲しい気持ちを引きずっています。

介護は持久戦、周囲の力を借りてひとりで抱え込み過ぎない

いまは介護サービスが充実しています。まずは市区町村やケアマネージャーへの相談をお勧めします。介護は終わりが見えない持久戦です。責任感が強い人ほどひとりで抱え込んでしまうこともあります。たらればになりますが、Aさんもひとりで抱え込み過ぎずに、周りの力をもっと借りながら介護ができていたら、周囲がもっとAさんを気にかけていたら……いまのAさんの後悔の思いも多少は違っていたかもしれません。

 

経済的な理由や介護を受ける方の考えなど、さまざまな検討すべき点はあると思います。ただ、その悩みをありのまま伝えるだけでも解決の糸口はあるように思います。

 

 

伊藤 貴徳

伊藤FPオフィス

代表