(※画像はイメージです/PIXTA)

連日、報道を騒がせている中古車販売大手「ビッグモーター」の不祥事。行き過ぎた社員へのノルマ要求から不正に手を染めた同様の例として、東芝、スルガ銀行、かんぽ生命などが挙げられます。社員へのノルマは、大小差があれど多くの企業で求められることですが、これが不正にまで発展することは、ある共通する根深い原因が存在すると、法律事務所Zの菅野龍太郎代表弁護士と今井陽祐弁護士はいいます。どんな原因でしょうか、みていきます。

「ノルマ要求→不正行為」の企業が横行しやすい理由

先述の例はいずれも、上場企業や金融関連の企業で発生しています。法令や上場規則などで厳しい規制や監督官庁の監督があるにも関わらず、こうした不祥事が発生するのはなぜでしょうか。

 

東芝、スルガ銀行、かんぽ生命およびビッグモーターの調査報告書を見ると、各不正の原因として次の共通点が顕出されます。

 

①上層部のコンプライアンス意識の欠如

②過剰なノルマによるプレッシャーの存在

③ガバナンスや内部統制システムの問題

 

が共通して指摘されています。

 

①上層部のコンプライアンス意識の欠如

これらの企業においては、上層部が不正行為を事実上黙認または推奨するような傾向が見て取れます。ビッグモーターでは、工賃と部品粗利の合計額を「アット」と呼び、この水準を上げることが求められていました。しかし、工賃と部品の粗利はそもそも事故車両の状態で決まるものであって、その平均額を営業努力によって改善することは難しいものであるはずです。

 

また、東芝の例においても、3日間で120億円の利益改善を要求したケースがあり、通常の事業運営でこの目標が達成できないことは明らかです。これらの不合理な目標を達成するには事実上、不正行為に手を染めるしかないことは上層部も理解しているはずです。

 

したがって、上層部が不正行為の可能性すら認識していないということは現実的に考えづらく、その状態を黙認(場合によっては事実上推奨)するような態度は、コンプライアンス意識が欠如しているとの誹りを免れることはできません。

 

②過剰なノルマによるプレッシャーの存在

①と関連して不正行為を誘発するのが過剰なノルマによるプレッシャーです。大規模な不正行為は組織ぐるみでこれを行うのが通常ですが、一般の従業員にもかかわらず、不正行為や違法行為に進んで手を染めたがる人は多くありません。しかし、組織ぐるみで不正が行われるケースでは、過剰なノルマによるプレッシャーから、不正を行うしかない状態に事実上追い込む傾向が見て取れます。

 

ビッグモーターでは、目標のアット水準を達成できない工場長に対して、その理由を厳しく問い詰める、工場長会議でその理由や目標達成に向けた行動予定の説明を強く要求するなどの行為が確認されています。

 

また、理由を明らかにしない降格人事を連発し、全社的に従業員らを過度に委縮させ、経営陣の意向に盲従することを余儀なくさせる文化が醸成されていました。

 

東芝やスルガ銀行のケースでも「チャレンジ」や「ストレッチ目標」と呼ばれる過剰なノルマの要求が一因であり、かんぽにおいても過剰なノルマと「恫喝指導」といわれる行き過ぎた態様の指導や、営業推進率が悪い募集人に対する上司らによる𠮟責等が行われることもあったと調査報告書には記載されています。

 

③ガバナンスや内部統制システムの問題

①②の問題に対して組織的な対応力を問うのがガバナンスや内部統制システムです。会社法上、大会社においては、内部統制システムを構築することが義務付けられ、取締役会の責任とされています。しかし、これらの企業では、内部統制システムが十全に機能していないことが指摘されています。ビッグモーターのケースではそもそも取締役会がまともに開催されておらず、コンプライアンスを担当する取締役さえ指定されていませんでした。

 

また、①と関連した問題として、たとえ一定の制度があったとしても、運営する人間のコンプライアンス意識が欠けていると、これが機能しない例も数多くあります。東芝のケースでは、監査委員会において一部の監査委員より不正会計について調査すべき旨の進言があったものの受け入れられず、不正会計を野放しにする結果になりました。ビッグモーターでも内部告発があったものの、社長をはじめとして真剣に調査を行わなかったことが指摘されており、仮に制度として内部通報制度が存在していても、事実上機能しなかったことが予測されます。

不正が起きる根本的な原因は共通している

メーカーにおける不正会計や、銀行における不正融資など、各社の業態や不正の内容はそれぞれ異なるなか、各調査報告書において①~③が共通して指摘されていることから、これらの問題は各社特有のものではなく、どの会社においても起こりうるものであるということがいえます。

 

そして、①~③の各原因についても、独立した問題ではなく、有機的に関連していると考えることができるでしょう。①コンプライアンス意識の欠如が、②理不尽なノルマの設定と過剰なプレッシャーを許し、③ガバナンスの制度を骨抜きにしてしまいます。

 

また、③経営陣に対するガバナンスが効いていなければ、利益を追求すべき立場にある経営者の常として、ついつい②現場の実情を無視した過剰ノルマの設定やこれに対する過度なプレッシャーを生むアクションに出てしまうこともあるでしょう。筆者の弁護士としての経験からも、企業や個人が直面するさまざまな問題の原因を辿ると、当事者に対する精神的なプレッシャーの存在や、問題を未然に防ぐ体制が未構築であったことが原因だと考えられる事例は多数存在します。

 

大企業における不正は、従業員や株主だけでなく、一般の消費者や社会に大きな影響を与えます。このような事件を未然に防ぐため、会社法の改正を含めさまざまな努力がなされているところですが、企業における不正が後を絶たないのが現実です。日本企業はこれらの過去の過ちを他山の石とし、健全な企業運営をするよう、継続的かつ総合的な対応を行うことが求められています。

 

 

法律事務所Z 東京オフィス 代表弁護士

菅野 龍太郎

 

法律事務所Z 弁護士

今井 陽祐

 

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