少子高齢化が進むなか、高齢者の5人に1人が1人暮らしをしている日本。さまざまな課題をはらむ高齢者の1人暮らしですが、一方で課題を解決するためのツールも存在します。そこで本記事は、Aさんの事例とともに、高齢者の1人暮らしで大切なことについて、株式会社アイポス代表の森拓哉CFPが解説します。
夫の死亡保険金500万円・85歳年金暮らしの女性「老人ホームはいや」…1人暮らしを望む高齢者の“切実な訴え”【CFPが助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

自分らしい生活を送りたい高齢者のためのツール4選

1.任意後見契約

任意後見契約は、認知症などで判断能力が低下した場合でも、事前に決めた代理人が財産管理や役所や病院の手続きを行うことができる制度です。後見制度というと法廷後見の制度が思い浮かぶことが多いのですが、法定後見人は家庭裁判所が決めるため、希望どおりの人が後見人に就任するとは限りません。

 

Aさんたち高齢者やその家族と相性が合うかというとそうとはならず、解決どころか新たな課題が生じる可能性すらあります。高齢者の気持ちに寄り添ったサポートをしてくれる後見人であればよいのですが、杓子定規でぶっきらぼうな対応をする後見人が就任してしまうと、不自由となり人生の質は大きく低下するでしょう。

 

2.家族信託

預金や不動産を信託財産とする契約を締結することで、その財産を託された人が、託した人のために利用できるようにすることを家族信託と呼んでいます。信託財産を受託者(多くの場合、子供たちなど)は高齢となった父母の病院代や介護費、生活を守るために利用することができます。

 

3.生命保険会社の介護保険

所定の要介護状態によって、介護給付金が支払われる生命保険契約があります。多くの介護保険は代理請求といって、いざ介護が必要になったときに、所定の条件のもと、親族が同居親族が被保険者本人に代わって、給付金を請求できる特約を付加することができます。

 

また、保険契約者代理特約といって、契約者本人が手続きを行うことが困難な場合、代理人が代わりに手続きをできる特約がある生命保険会社もあります。いざ介護が必要になったときに、代理で請求して、ご本人のために使ってもらえるようにする比較的気軽な仕組みのひとつではないでしょうか。また現在、若い方であっても、将来ご自身が1人で暮らすことを想定される場合は、所定の介護状態に応じて、介護年金を受け取れる掛け捨ての生命保険も検討に値するかと思います。

 

4.銀行の代理人指名手続き

あらかじめ代理人(2親等以内の親族)を指名することで、預金者が所定の状態となり預金の引き出しが困難と認められた場合、指名した代理人が預金の引き出しなどを本人に代わって自由にできるようになります。ただし、すべて窓口での対応が必要など煩雑な面もあります。

 

似たような仕組みとして、代理人キャッシュカードの発行という方法もあります。預金者本人が銀行で代理人カードの発行を依頼して、そのカードを代理人に渡すことで、ATMなどでの出金が預金者同様にすることができるようになります。費用もかからない最も手軽な手続きのひとつです。

 

これらは金銭管理ツールに加えて、福祉制度や税負担の軽減も見込める注目すべき支援です。たとえば、介護認定を受けることで、障害者手帳を取得し、さまざまな障害福祉サービスを受けることができる場合があります。また、毎月の健康保険料の負担が厳しい場合、子供の健康保険の扶養に入るという選択肢も存在します。介護認定を受けていれば、障害者控除の適用を受けて税の軽減を受けられる可能性もあります。所得が下がった結果、特定入所者介護サービス費の支給を受けられる可能性もあります。

1人暮らしの高齢者が生き抜くためには

多岐にわたるさまざまな支援の可能性があるのですが、これらのツールやサービスを利用するための情報は散逸しており、1ヵ所でまとめて相談できる場所が存在しないのが現状です。これが高齢者にとっては大きな課題です。ひとつひとつに手間がかかり煩雑なために諦めてしまうのです。

 

ここに相談すれば解決するという単純な図式は残念ながら存在しないのですが、1人で生き抜くためには、あきらめずに探し続けることが大切です。

 

諦めない気持ちと行動が、できるだけ自分のことは自分でして、自分らしい人生を送るための答えです。さらにはいまを生きる高齢者だけではなく、日本人全員の課題であるといえます。いまを生きている人のほとんどが高い確率で高齢者となって、高齢者の人生を歩むのですから。

 

筆者も今は家族と暮らしていますが、おそらくは私と配偶者のいずれかは単身で1人暮らしをする時間があるということになるでしょう。年老いてから自分の暮らす街のサービスや状況を知るのではすでに遅すぎる可能性があります。

 

地域包括支援センターがどこにあり、どのような動き方をしてくれるのか、自分の暮らす街ではどのような独自サービスがあるのか、早い段階で理解しておくことが自身の1人暮らし、自分らしい人生を送る一助となるでしょう。また、早い段階で知るためには今を生きる1人暮らしをする高齢者に少しでも寄り添い、一緒に諦めずに自分事として解決策を探していくことが大切です。そのケーススタディの集合体が、明るい老後、自分らしい人生の答えに近付くものではないかと考えています。単身高齢者の課題は、誰もが自分事として持つ可能性があるのです。

 

 

森 拓哉

株式会社アイポス 繋ぐ相続サロン

代表取締役