高齢化が進むなか、人生を共にした伴侶が先立ち、最期はひとり暮らしになる高齢者も少なくありません。そうした際に、悩みのタネとなりやすいのが、これまでの住まいをどうすべきか問題。もし売却を決断したとしても、思うようにはいかないことも多々あるようで……。本記事は、Aさんの事例とともに、高齢者が終の住処を考えるうえで重要なことについて、株式会社アイポス代表の森拓哉CFPが解説します。
〈年金月10万円の元自営業80歳・独居老人〉思い出いっぱいのマイホームを泣く泣く手放す決意も…不動産屋から告げられた「衝撃のひと言」【CFPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

高齢者の終の棲家はマイホームが多い

高齢者の終の暮らしは、一人暮らしになることも多く、また最後は老人ホームの選択も一般的なものとなってきました。少し古いデータですが、老人ホームなどに入居している高齢者の割合は、平成7年の4.2%から平成22年の5.7%と上昇しています(総務省統計局のデータより)。

 

妻を亡くした失意のなか老人ホーム入居へ

80歳のAさん。長年連れ添った奥様を亡くされたあと、思い出の詰まったマイホームで一人暮らしをするのは気持ち的にも辛いということもあり、子どもの勧めもあって、近くにできた老人ホーム入居を検討することになりました。Aさんは長らく自営業者だったこともあり、年金は月10万円ほどで決して多くはありませんが、預貯金は1,500万円ほどあったことから、老人ホームへの入居は資金的にはなんとかなるだろうと見込んでいました。

 

Aさんは慣れ親しんだマイホームを売却するかどうか悩み不動産屋に相談したところ、不動産屋は「いまのうちに売却して現金にしておいたほうが、不動産の管理も必要ありません。相場も悪くありませんし、いつ相場が下がるとも限りません。売却した資金を生活資金として使えます。売却が最善です」と勧めてきました。

 

Aさんとしては、思い出の詰まったマイホーム、急遽決めた老人ホームが自分に合うのかどうか不安もあります。また、ゆくゆくは子供たちに継いで欲しいという淡い気持ちも捨てきれません。

 

踏ん切りがつかず悩んでいたところ、不動産屋から次善策の提案として「売却するのが最善だと思いますが、どうしても抵抗があるなら賃貸に回してはどうでしょうか。管理は当社でやりますから。ひと月8万円ほどの家賃でしたらすぐに入居者さんは決まるでしょうし、老人ホームでの暮らしの費用にも充てられてこれからの暮らしが安心ですよ」とアドバイスを受けます。

 

すぐに売却することに抵抗があったAさんもは、この案を受け入れ、マイホームを賃貸することにしました。賃貸住宅の管理は相談をした不動産屋に月々5,000円の管理料を支払って依頼することになりました。

 

3年ほど老人ホームでの暮らしをしたAさん。幸いにも周りの環境は悪くはなく、友人にも恵まれて落ち着いた暮らしを続けていました。ところが、預貯金の残額が1,000万円を切ったころから、経済的負担が気になり始めました。いつかはもしかしたら戻るかもしれないと淡い気持ちを抱いていたマイホームへの想いもいつの間にか、それほど強い気持ちは無くなっていました。

 

「マイホームをこのまま持つのも潮時か……」と考えたAさんは子供の助けも借りて、不動産屋に売却を打診することにしました。