元大企業の部長、年収1,500万円の勝ち組だったが…65歳「生きがい」で実感する格差
Dさん(65歳)は、有名な私立大学を卒業後は、大企業に就職して部長職で年収1,500万円までになった高収入のいわゆる人生の「勝ち組」でした。ほとんど挫折知らずで60歳で定年退職したあとは、「しばらくは釣りやゴルフなどを楽しんでその後はどこかの企業の管理職でも勤めようか」と考えていました。
現役時代はマネジメント以外の実務は部下に任せ、休日や夜はゴルフや高級店での接待などで毎晩のように帰りが遅くなりましたが、大きな契約をいくつも取った実績があるそうです。
定年退職後は予定どおり自分の時間を満喫していましたが、そのうち時間を持て余すようになります。子どもたちは結婚してしまい二人暮らしとなった妻に「旅行でも行こうか」と誘ってみましたが「友達と行くから」と無下に断られてしまいました。
毎日帰りが遅かったため会話は少なかったのですが、退職後もほとんど会話がないままでDさんは家に居ることが苦痛になってきます。そのため、そろそろ再就職しようと就職活動を始めましたがなぜかうまくいきません。
「大企業の部長まで勤めて評価も年収も高かったから、贅沢をいわなければ仕事なんてすぐに見つかるだろう」と思っていたそうです。しかし知り合いや友達などに声をかけてみても、実務を部下に任せ続けたため企業が求める即戦力にはならないようで、思ったように仕事が決まらず、人生で初めてといっていいほどの挫折を感じてしまいました。
そんなDさんに1通の手紙が届きます。高校時代の陶芸の好きな同級生で父親の工房を継ぐために大学を2年で中退した友人からの個展の案内状でした。Dさんは当時、父親の小さな工房を継いだり大学を中退したりしたこの友人の行動が理解できず、正直にいうと下に見ていましたし、案内状が届くまではすっかりその存在を忘れていました。
ですが、あとから聞くとこの友人は、工房を閉めようかと思ったほど苦労した時期もあったようですが、海外から旅行に来ていた著名人がこの友人の作品を購入しネットで紹介してくれたことで、海外からの受注が増えたことからいまではお弟子さんを何人も抱える知る人ぞ知る有名な陶芸家になったそうです。
個展に出かけ、精力的で自信に満ちた友人の顔を見た後のDさんは抜け殻のようになってしまい「大企業の部長という肩書が外れたいまの自分は何者だろう」と考えるようになってしまいました。
人生100年といわれる時代になりましたが、年代によって「格差」の感じ方は違うようです。多様性の時代ですので、あまり人と比べることはしないで、長い人生、心も身体も健康で過ごせるように努めましょう。
岸田内閣の「格差是正」が「格差拡大」に!?
2021年9月の政権発足時には岸田首相は、格差是正に向け1人ひとりの所得を引き上げる「令和版所得倍増計画」を掲げていました。これを聞いた当初は「給料が2倍になるのかな」と期待した人も多かったのではないでしょうか。
ところがいつのまにか「資産所得倍増計画」となり、「貯蓄から投資の流れを強化する施策」に変わってしまっていました。厚生労働省「国民生活基礎調査」では2019年時点で、貯蓄ゼロ世帯は全世帯の13.4%、と発表しています。投資のできる余裕のない国民の資産は倍増などしませんね(ゼロの2倍はゼロです)。
さらに、金融資産の6割は60歳以上の高齢者が保有しているという事実があり、世代間格差も拡大させる怖れがあります。「格差是正」が、さらなる「格差拡大」に転じてしまうのではないか、と考えます。
川淵 ゆかり
川淵ゆかり事務所
代表