23年4~5月、PBR1倍割れ企業の自社株買い設定金額は18年度4~5月以降で最大になりました。しかし、自社株買いだけでは、市場の注目や株価の上昇は一時的なもので終わる可能性があります。本稿では、ニッセイ基礎研究所の森下 千鶴氏が、継続的な株価の上昇のためのポイントを解説します。
2023年4~5月の自社株買い動向~東証のPBR1倍割れ企業に対する改善策の開示要請の影響は~ (写真はイメージです/PIXTA)

■株価は発表翌営業日に大幅上昇

自社株買い設定の発表は、アナウンスメント効果もあり株価には一般的にプラスに働くと考えられている。過去の集計では、平均して2~3%はTOPIXを超過する傾向があった。

 

2023年4~5月はどうであったか。図表3は、自社株買いの設定を発表した企業の全体およびPBR1倍以上/1倍割れの株価推移をまとめたものである。左は2023年4~5月に自社株買いの設定を発表した企業、右は2018~2022年度の4~5月に自社株買いを設定した企業について、自社株買い設定日を基準日(0日)として、対TOPIX超過収益率を単純平均している。①、④の灰色は自社株買い設定企業全体、②、⑤の青色はPBR1倍以上の企業、③、⑥のオレンジ色はPBR1倍割れ企業の株価推移である。

 

[図表3]
 

図表3を見ると、①の2023年4~5月に自社株買い設定を発表した会社全体では、発表翌営業日に約2%対TOPIXで上昇と、④の2018~2022年度4~5月の過去5年平均と同様に上昇した。その後は④の2018~2022年度4~5月と比較すると株価はやや弱含み、約0.5%対TOPIXで上昇して推移した。

 

自社株買いの設定を発表した企業の株価推移が過去5年平均より低かった理由として、2023年4~5月は、海外投資家が株式を大幅に買い越していたこと、また、株価の上昇を受け割安感が低下したことで自社株買いの実際の買付を様子見していた企業もあったと考えられる。それでも、対TOPIXで上昇しており、2023年4~5月も引き続き自社株買い実施企業の株価は投資家からはポジティブに反応されていたようだ。

 

なお、PBR1倍以上/1倍割れ企業で株価推移に違いがあるか確認したが、明確な差が確認できなかった。発表翌営業日は2023年4~5月、2018~2022年度4~5月の平均ともに、③、⑥のPBR1倍割れ企業の株価が、②、⑤のPBR1倍以上の企業の株価よりも対TOPIXで上昇した。

 

ただし、上昇幅はPBR1倍以上/1倍未満でそれほど大きな差はなく、さらに、発表から5営業日以降は③、⑥のPBR1倍割れ企業の株価は、②、⑤のPBR1倍以上の企業の株価を下回って推移した。

■株主還元と合わせて成長戦略も

2023年度も、ここ数年と同様に4~5月時点では積極的な自社株買いを実施する様子であり、上場企業の株主還元への姿勢や資本効率の改善への意識は引き続き強いようだ。東証のPBR1倍割れ企業に対する改善策の開示要請の影響はあまり見られなかったが、年度が進むにつれ東証の要請を意識して設定する企業が増えるのかに注目したい。

 

ただし、自社株買いだけでは市場の注目や株価の上昇は一時的なもので終わる可能性がある。PBR改善策として自社株買いなどの株主還元強化が注目されているが、株主還元する利益が増えないことには株主還元の充実を中長期的に行うこともできない。

 

そのため株主還元強化と合わせて新規事業への挑戦などの成長戦略や不採算事業の切り捨て等の思い切った経営戦略に取り組み、中長期的に利益の継続的な拡大を達成することこそが、企業価値の向上に不可欠であり、さらにその先の結果として、株価上昇やPBR改善につながるものと考えられる。