コロナ禍が始まった2020からの3年間、男性の2.2倍の女性人口が東京都に集中している。東京一極集中という名の「若年未婚女性の集中」の影響を理解しない限り、出生率に関する議論は、単なる都会叩きの域を出ることはない。ニッセイ基礎研究所の天野 馨南子氏が、「本当の少子化」について解説する。
出生「数」変化で知る都道府県の「本当の少子化」(2)-東京一極集中が示唆する出生減の理由- (写真はイメージです/PIXTA)

【女性転入超過エリアの低出生率は悪なのか】

 

日本の合計特殊出生率(以下、出生率)が2022年は1.26であると発表されたことで、出生率に関する記事が増えている。しかし、いまだに「出生率とは何なのか」十分に理解しないまま原因分析に入ってしまうケースが少なくないように思われる。その場合、必ず「あんなに出生率の低い東京都は少子化促進エリアだ」というような議論が浮上する。

 

はたして、これはいかがなものか。出生率の計算式の因果関係を理解したうえで慎重な検討がなされなければ、単なる若者に人気の都会叩きにとどまることになる。

 

そもそも、出生率が上下する要因は3つある。

 

1.既婚者(日本は98%が婚内子)のもつ1組当たりの子どもの数の減少

 

2.未婚者割合の増加(日本では未婚者の出生率は2%程度で捨象する水準)

 

3.測定エリアにおける未婚女性の移動状況(日本国全体では移民比率が2%程度なので捨象できるが、都道府県以下の単位では出生率に大きな影響をもつ)

 

つまり、出生率上昇要因は

 

ア.既婚者に対する支援(妊活、子育て支援)⇒既婚者の出産支援を通じた出生率上昇

 

イ.未婚者割合の低下策(若年層のライフデザイン支援、婚活支援)⇒既婚割合の増加を通じた出生率上昇

 

ウ.エリアからの未婚女性流出⇒エリアの未婚女性割合の低下による出生率上昇

 

と計算構造上、説明できる。

 

実は3つ目の「ウ.エリアからの未婚女性流出⇒エリアの未婚女性割合の低下による出生率上昇」を理解していない者がいまだに非常に多く、「東京都って出生率が低いね、よほど夫婦に子どもが生まれないんだね、教育費かかるから当然だ」「低出生率の東京都なんか幸せじゃないから、女性は東京都にいかない方が幸せなはず」などの事実を十分に把握しないままでの「感覚論」を述べてしまいやすい。

 

しかし、これらは女性が大量に(四半世紀で90万人超)地方から東京都へと移住・純増し続ける(地方から出ていって戻ってこない流れが止まらない)、という前提条件を棚上げし、少子化との因果関係を1人当たり指標にすぎない出生率だけで説明しようとして、逆読みしているのである。確証バイアスの典型例といってもいいかもしれない。

 

東京圏がそんなにだめなエリアならば、なぜ東京圏から男性より女性が地方に戻ってこないのだろうか。

 

1996年に女性の転入超過により始まった東京一極集中は、2009年以降、つねに男性より女性の方が多く移住増加し続けており、「女性一極集中」ともいえる男女集中格差をみせている。

 

更に、年々その格差は拡大するばかりで、コロナ禍が始まった2020年からの3年間では、男性の2.2倍の女性人口が東京都に集中し、転入超過数の男女比は過去最大となった。

 

このように継続的かつ男性を上回る女性の転入超過が止まらない東京では、当然ながら「ウ.エリアからの未婚女性流出⇒エリアの未婚女性割合の低下による出生率上昇」の逆の現象が発生することになる。エリアへの未婚女性の継続的な流入⇒未婚割合の上昇(高止まり)となり、出生率が低く抑えられる。

 

これは地方都市における低出生率も同じことが言える。高知県なら高知市、石川県なら金沢市が最も出生率が低位となることに同義である。反対に、過疎地域において出生率が急上昇する現象も同じ背景にある。

 

低位出生率をもって「都市が悪」というならば、都市における出生率の引き下げ要因がそもそも地方からの未婚女性の流出であるという因果関係を考えずに批判していることになる1

 


1 自治体間の幸福度比較についても同じことが言える。継続的に都市に若い女性が流出しているエリアが「幸福度が都市は低いから、女性はわがエリアに戻ればいい」と言ったらどうだろうか。地元で不幸と感じる女性が都市に出ていっており、移動後の短期ではそう簡単に新環境で幸福感をあげることは難しい。そして、地元文化に親和性が高い女性だけが残りやすいから、地元幸福度が高いだけではないのか、といった非難は避けがたいところとなるだろう。