■はじめに
2023年4~5月の自社株買い設定金額は3.7兆円と、2022年度4~5月の4.2兆円は下回ったものの、過去5年平均の2.5兆円は大きく上回った。
東証のPBR1倍割れ企業に対する改善策の開示要請を受けて、資本効率の改善や企業価値向上が意識され自社株買いが増加する可能性が指摘されていたものの、予想されていたほどには増えなかった。
ただし、PBR1倍割れ企業の自社株買い設定金額は2018年度4~5月以降で最大であった。
2023年4~5月に自社株買いを設定した企業の株価は、過去5年同様に対TOPIXで上昇した。PBR1倍以上/1倍割れで株価の反応に顕著な差は確認できなかった。
自社株買いだけでは、市場の注目や株価の上昇は一時的なもので終わる可能性がある。新規事業への挑戦など自社の成長戦略を掲げて実行し、とにかく収益を拡大することが企業価値向上には必要不可欠であり、そのうえで自社株買いを含む株主還元が強化されれば、市場からの継続的な評価と株価の上昇につながると考える。
■自社株買いへの意欲は高い
2023年4~5月のTOPIX構成銘柄企業の自社株買いの設定件数は237件と2018年度4~5月以降最大だった。設定金額は3.7兆円と2022年度4~5月の4.2兆円は下回ったものの、過去5年平均の2.5兆円は大幅に上回った。
■PBR1倍割れ企業の設定金額は2018年以降で最大
東京証券取引所は、中長期的な企業価値向上に向けた取組の動機付けの一つとして、継続的にPBRが1倍を割れている上場企業について改善策の開示を要請している。これをきっかけに、資本効率の改善や企業価値がより強く意識され、自社株買いの設定が増える可能性が指摘されていた。そこで、2018~2023年度の4~5月に自社株買いを設定した企業をPBR1倍以上/1倍割れで分け、2023年4~5月とそれ以前で変化があるのか確認した。
図表2は、PBR1倍以上/1倍割れで分けて集計した設定金額及び設定件数の年度ごとの4~5月の推移である。PBRは、2023年であれば2023年3月末時点の値を基準としている。棒グラフは各年度4~5月の設定金額及び設定件数の合計を、折れ線グラフは、PBR1倍割れの企業の数字が全体に占める割合を示している。
設定件数はPBR1倍割れ企業に限ると130件であり2022年度4~5月の139件を下回っていた。PBR1倍割れ企業の自社株買い設定件数は特に増えなかったようだ。さらに、2023年4~5月に初めて自社株買いを設定した企業は10件あったが、そのうちPBR1倍割れ企業は1社のみだった。2023年4~5月については東証のPBR1倍割れ企業に対する改善策の開示要請をきっかけとした自社株買いの設定が特に増えている様子は見られなかった。
ただし、PBR1倍割れ企業の設定金額は1.79兆円、設定企業全体に占める割合も48%と、設定金額、割合ともに2018年度4~5月以降最大であった。PBR1倍割れ企業のなかには、資本効率の改善や企業価値向上を意識して、より積極的な自社株買い設定を発表した可能性がある。