超高層マンション(タワーマンション)の法律上の定義はないが、一般的には高さ60メートル以上、概ね20階以上のマンションを指し、大規模修繕費用は高額となる。ニッセイ基礎研究所の渡邊 布味子氏が、その理由を考察していく。
マンションと大規模修繕…超高層マンション(タワーマンション)の大規模修繕 (写真はイメージです/PIXTA)

超高層マンションの大規模修繕工事の成熟期は2030年後半以降か

日本で最も古い超高層マンションは1976年に建築された「与野ハウス」で、それ以降、超高層マンションの建設の建設棟数は増加している。不動産経済研究所によると、超高層マンションは1976年以降、2021年までに939棟が建設され、2022年に建築が予定されていた18棟を加えると、累計で957棟が完成しているはずである。このうち、築30年を迎えている(1992年以前の建築の)超高層マンションは54棟と全体の5.6%にすぎない(図表4)

 

【図表4】
【図表4】

大規模修繕工事はエレベーター取替工事を含む2回目が多額となりやすく、2回目の大規模修繕工事の実施が増えてこなければ、施工業者側に十分な施工事例が蓄積されるとは言えない。超高層マンションの建築棟数が増加し始めたのは2000年頃以降である。超高層マンションの大規模修繕工事の技術が成熟するのは、これらのマンションが築30年を迎えて大規模修繕の2回目を終えたころにあたる、2030年代の後半以降になるのではないだろうか。

 

超高層マンションの大規模修繕には一般的なマンションより想像力と計画性が必要

前稿で、「大規模修繕が必要な段階になって資金不足で着手できない等の手遅れになる前に、毎月の修繕積立金が本当に足りているのかについて、マンションの購入者は真剣に考える必要がある。」ことを述べた。現時点では、超高層マンションの大規模修繕工事では過去の施工事例が参考にならないことが多く、一般的なマンションよりもさらに想像力と計画性を持って費用とスケジュールの管理する必要があると考える。

 

具体的には、超高層マンションの修繕費用の積立は、一般的なマンションよりも余裕を持った資金計画を立て、予備の費用を多く積み立てておく必要があると思う。国土交通省の長期修繕計画や修繕積立金についてのガイドラインでは、施工事例の裏付けに基づいて専門家が十分に吟味し、超高層マンションの大規模修繕計画や費用にも言及する努力はされているものの、この基準を満たすだけでは費用の積み立てが十分ではない可能性が高い。

 

建物の形状や設備に応じて必要な費用は異なるが、超高層マンションの大規模修繕工事は相対的に手間がかかり、大掛かりな機械設備などの取替工事が必要であることが多く、工事期間も長くなりがちである。思いもよらない費用が増えて修繕費用が増大したり、積立金の不足が発生したりする可能性は、一般的なマンションよりも高いと考える。

 

一方で、建設業者の立場になってみれば、工事費用が多額となる超高層マンションの大規模修繕は魅力的な分野である。今後は各社がノウハウの蓄積のために積極的に受注し、新しい技術の導入が進むと考えられる。今までより耐用年数の長い部材も増え、価格競争も進むだろう。

 

マンションの所有者や管理組合には、新しい技術に精通した専門家と協力し、月次の修繕積立金の積立額を変更したり、維持管理の状態が相対的に良い一部の大規模修繕工事の時期を遅らせることを検討したりと、より柔軟な対応が求められる。様々な困難があるだろうが、維持管理の良いマンションは長期にわたって資産価値を維持しやすいと考えれば、手間のかけがいもあるのではないだろうか。

 

なお、超高層マンションは数百戸以上の大規模なコミュニティであることが多く、工事内容や費用支出に関する合意形成には小規模のマンションよりも時間がかかる。大規模修繕を行うことが決まっていて順調に計画が進んだとしても、話し合いの開始から着工までに2年から3年を要するのではないだろうか。普段から管理組合の運営を前向きな姿勢に保ち、適切な時期に工事計画を策定できるように居住者間の意思疎通を図ることができる土壌を作っておくことが極めて重要となるだろう。