超高層マンション(タワーマンション)の法律上の定義はないが、一般的には高さ60メートル以上、概ね20階以上のマンションを指し、大規模修繕費用は高額となる。ニッセイ基礎研究所の渡邊 布味子氏が、その理由を考察していく。
マンションと大規模修繕…超高層マンション(タワーマンション)の大規模修繕 (写真はイメージです/PIXTA)

大規模修繕費用が高くなる原因(2):外壁塗装・外壁タイル補修工事

2つ目は、外壁塗装・外壁タイル補修工事である。超高層マンションの外壁に用いられる主な仕様には、オフィスビルなどにも用いられる「カーテンウォール*1」や、中低層のマンションでもよく用いられる「タイル貼り」があり、このうち大規模修繕工事の手間と時間がかかるのは「タイル貼り」である。

 

基本的なタイルの補修工事では、歩行者の頭上などの通行人に影響する場所のタイルを1枚1枚、割れていないか(割れ)、外壁に接着しているモルタルからタイルが浮いてしまっていないか(浮き)など、劣化や破損を確認し*2、割れや浮きのあるタイルを1枚ずつ交換する作業が行われる。基本的な工程は、その外壁の場所が1階でも20階でも変わらない。

 

当たり前だが、超高層マンションは、一般的なマンションよりも高さが高く、上層に行くほど作業には危険が伴う。前述の「大規模修繕に関する実態調査」では、「超高層マンションの外壁工事に特有の難しさは何か」との問いに対し、「安全対策*3」が69.2%と大半を占めている。建物の形状にもよるが、高所の作業における作業者自身や落下物に対する安全対策・強風への対策をし、風が強い日には工事を見送る可能性など工期も長く見積もる必要があり、費用も当然高くなる。

 

*1:高層ビルや高層マンションの外壁の種類の1つで、工場で作成されたの軽量なフレームまたはパネルを、うろこのように建物の躯体に張り付ける工法である。ガラス張りのビルでよく用いられるほか、セラミック、コンクリートなど多様な製品がある。

*2:高層マンションのタイルの割れ等の検査には、近年はドローンを用いた赤外線検査が発達している。利用可能なら確認作業のための一部費用が削減できる。

*3:安全対策のための設備の設置と除去に関する費用は仮設工事に含まれる場合もある。

 

大規模修繕費用が高くなる原因(3):エレベーター

3つ目は、エレベーターである。通常のマンションであっても、エレベーターや機械式駐車場などの機械設備は維持費も修繕費も高額となることが多い。加えて超高層マンションのエレベーターについては、下記の点を知っておく必要がある。

 

すべてのエレベーターは一定周期で取替が必要で、取替時期は大規模修繕2回目または築30年程度である。主要メーカーによると、エレベーターの耐用年数は25年とされ、国土交通省の「長期修繕計画標準様式」では築12年から15年で修繕、築26年から30年で取替が推奨されている。

 

超高層マンションで設置されるエレベーターは、超高層のオフィス・商業施設などのビルでも用いられる超高速・大容量エレベーターである。特注品で価格も維持費も高い。

 

前稿*4で述べたように、大規模修繕を実施する建設会社は、5年後、10年後の予想できない将来の工事請負について正式な見積書を出すことはない。加えて、エレベーター取替工事には、建設業者が見積書を作成する前に、費用の計算根拠となるエレベーターメーカーの見積もりが必要になり、同様に将来の見積書を入手することは難しい。

 

一般的なマンションであれば、類似のエレベーターが数多くあるため、エレベーター取替の施工事例が蓄積しており、熟練した専門家であれば、見積書がなくても工事期間の長さや必要な費用をある程度予測することは可能である。しかし、超高層マンションの多くがまだ新しく、前述の「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」で集められたサンプルに占める超高層マンションの施工事例は、大規模修繕工事の各回別に1回目が12.4%、2回目が0.5%、3回目が0.4%にすぎない*5。また、超高層マンションの施工事例の築年数は、91.5%が築25年以下であった(図表3)

 

つまり、超高層マンションの大規模修繕の施工事例は、エレベーターの取替時期である大規模修繕2回目または築30年前後で大規模修繕工事を行った例があまりなく、施工業者側にノウハウが十分蓄積しておらず、過去の施工事例が参考にならない。

 

むしろ、超高層のオフィス・商業施設などのビルのエレベーター取替工事に近い高額な費用になると考えられるが、これと同レベルの大規模修繕工事費をすべての超高層マンションでオーナーである居住者が負担できるかどうかには疑問が残る。もし、工事予定時期までに積み立てられた修繕積立金では不足する場合には、「部品の取替で済ませて工事費を抑えられるのか」、「エレベーターが耐用年数を超えてどこまで使えるか」が重要な問題となるだろう。

 

【図表3】
【図表3】

 

 

*4:渡邊布味子『マンションと大規模修繕(2)~なぜ修繕積立金の累計は大規模修繕費に足りなくなるのか』(ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート、2023年04月05日)

*5:各案件の詳細な工事内容については公開されておらず、アンケートに「2回目」と回答した施工事例に実際に、エレベーター交換工事が含まれているかは不明である。しかし、超高層マンションの1回目の大規模修繕工事にエレベーター取替工事が含まれる場合はほとんどないと考える。