▼商館
商会長「うむ、たしかに……」
工房長「……為替手形を受け取りました」
老練工房「なあ、ねえちゃんは『複式簿記』ってのができるんだろう? 為替手形はどうやって帳簿につけるんだ?」
女騎士「ふふふ。しかたない、教えてやろう///」
王立商会「ふん、魔国の知識など……」
女騎士「まずは為替手形を振り出したときの――今回なら港街商会の仕訳はこうなる。王立商会への売掛金を減らして、同じ金額だけ老練工房への買掛金を減らすのだ」
カキカキ……
女騎士「続いて、為替手形の名宛人になった場合の仕訳だ。今回なら、王立商会の帳簿にはこういう仕訳が記入される。港街商会への買掛金を減らして、代わりに、老練工房宛ての『支払手形』を増やす」
カキカキ……
女騎士「最後に、為替手形の指図人になったときの仕訳だ」
老練工房「つまり、うちの帳簿に記載する仕訳だな」
女騎士「港街商会への売掛金を減らして、代わりに、王立商会宛ての受取手形を増やせばいい」
老練工房「さすがは会計のプロフェッショナルだ!」
女騎士「いや、これは……」
王立商会「……魔国でそれなりに勉強したことは認めましょう」
商会長「すばらしい知識の持ち主でいらっしゃる」
工房長「まさに文武両道、才色兼備ですね!」
女騎士(簿記3級レベルなのだが……!)
※2016年の試験範囲変更により、為替手形は日商簿記3級の範囲ではなくなりました。
工房長「うちの職人たちにも全力で腕をふるうように言いましょう。知識を披露していただいたお礼です。銀行家さんからのご注文には、最高の品でお応えします」
女騎士「う、うむ、ありがたい」
工房長「完成にはあと3週間ほどかかります。それまで帝都でごゆっくりしてください」
女騎士「3週間だと!?」
女騎士「それは困る! 月末までに港町に戻らねばならんのだ!」
工房長「せっかくですから、帝都観光を楽しまれては……?」
老練工房「じつは工房長、この姉さんは……(ごにょごにょ)……というわけなんですよ」
工房長「なるほど。銀行家さんのことを考えると夜も眠れない、と」
女騎士「そうなのだ!」
工房長「しかし参りましたね。材料が今すぐ手に入っても完成には1週間はかかります」
女騎士「そんなレアな材料なのか?」
工房長「いいえ、冒険者ギルドで買えます。ですが、あのギルドは現金でしか取引に応じてくれないのです。そして現金の入金予定は2週間先までありません……」
女騎士「どんな材料だ?」
工房長「三本足ガエルの皮と、蛇龍ザルティスの牙ですね」
女騎士「ううむ、ドロップ率から考えると……私が討伐に向かっても入手には2~3週間かかってしまうな。冒険者ギルドで買うしかなさそうだ。そもそも、銀行家さんは何を注文したのだ?」
工房長「守秘義務です。お教えできません」
女騎士「待てよ? 現金があれば材料が買えるのなら……先ほどの『手形』を銀行で現金化すればいい! 帝都にも銀行はあるのだろう?」
工房長「はい、ありますが……」
老練工房「手形を買い取るときに、手数料をちょろまかすというウワサでね」
女騎士「大丈夫だ。私が同行して金額を確認しよう」