次なる争点
2. ATMから出金をしたのは次男・ジローだとしたら不当利得返還請求権は成立するか
ATMからの出金者はジローと認定されました。次に、相続財産を構成するために、出金した財産を特定するか、次男に対する債権であるかのいずれかを認定しなければなりません。
本件では、出金したあとの財産を特定することができなかったと推察されます。となると、次男に対する債権であることを認定する必要があります。
この認定のために重要となるのが出金時の母・ママ子さんの状況です。ママ子さんは平成22年11月にアルツハイマー型認知症と診断されています。出金時の平成25年12月~平成28年1月の意思能力の程度を考慮すると、ジローに対して、本件金員が贈与されたとは考え難く、ジロー本人も本件金員の贈与等を受けた事実がないことは認めています。
したがって、ジローは相続の開始までに出金した約14億円の一部を自己のために費消し、いずれかで保管していることから、法律上の原因なく利益を受け、そのためにママ子さんに損失を及ぼしたものといえます。
すなわち、母・ママ子さんは次男・ジローに対する不当利得返還請求権を有することとなります。
ジローには出金を隠したことによるペナルティが
相続税の負担を軽減するため、被相続人(財産を遺して亡くなった方)が亡くなる数年間で現金を引き出したとしてもバレます! 銀行の記録を調べれば、どこのATMで引き出したかもすぐに分かります。そしてそのATMの防犯カメラや従業員等の申述により、引き出した人は特定されてしまいます。
本事例では、次男のジローは出金した財産を隠すことには成功しました。仮に自宅の庭などに埋められていて、国税局の職員が発見すればその現金を相続財産として認定します。ですが本件では、現金や他の預金等を見つけることができなかったのでしょう。なので、不当利得返還請求権として相続財産に計上すべきであると認定されたのです。
すなわち、出金した現金を無事隠すことに成功したとしても不当利得返還請求権等の債権として相続税がかかってきてしまうのです。
本件で相続税申告を担当した税理士はジローに対し「『多額の出金を隠してもいいことはなく、このまま申告書を提出すると税務調査が入る可能性がある』と伝えたが、ジローは『調査が入っても構わない』旨を返答した」と言います。
本件は出金を隠したことにより、当初から適切に申告をしていればかからなかった重加算税等のペナルティもかかってしまいました。経済的に得をするために虚偽の申告をした結果、むしろ経済的に損をしてしまった事例です。亡くなったお母様は一番悲しむのではないでしょうか。
角田 壮平
税理士法人トゥモローズ 代表税理士
行政書士