【実際の相続事例】認知症の母の口座から約14億円を引き出した?次男
アルツハイマー型認知症を患っていた母・ママ子さん(仮名)は、秋も深まるある日に財産を残して亡くなりました。相続人は長男・タロー(仮名)と次男・ジロー(仮名)です。ママ子さんは亡くなる3年半前から老人保健施設で暮らしていました。
悲しみに暮れるなかタローとジローはママ子さんが残した財産を相続し、それぞれの相続額分の相続税申告をしました。ところが数年後、国税局からジローのもとへ連絡が入り、税務調査に発展します。
ジローがママ子さんが亡くなるまでの2年の間に、ママ子さんの預金口座からATMで合計約1,900回以上、総額約14億円以上を引き出した記録があります。ですが、ジロー本人はこの出金の事実について否認しています。
ママ子さんが亡くなった時点では、財産がすでに約14億円目減りした状態だということが判明しました。その後の顛末はいかに!
【時系列まとめ】一連の流れ
本件は、実際にあった裁判事例です。まずは、時系列を整理していきましょう。
H22.11 母・ママ子さん アルツハイマー型認知症と診断される
H24 ママ子さんは所有している証券口座について、次男・ジローを取引代理人とする「代理人・印鑑届」を提出
H24.12 ママ子さん 老人保健施設に入所
H25.9~12 ジローが上記、ママ子名義の証券口座に預けられていた株式を全て売却
H26.2 ママ子さん 介護付き有料老人ホームに転居
H25.12 ジローが750日(約2年)の間に、ATMを通じて合計1,902回、総額~H28.1 14億3,002万3,000円を出金
H28.4 タローとジローがママ子さんの遺産を相続開始
タローとジローは法定期限内に相続税申告書を国税局に提出(上記出 金は相続財産に計上していない)
数年後 ジローへの税務調査に発展。ジローはATMでの出金の事実を否認
R2.3 国税局が「13億8,735万円に相当する金員に係る不当利得返還請求権 が相続財産に含まれるもの」として、ジローへ更正処分を下す
R3.4 国税不服審判所にて、国税局のジローへの処分は適法と判断
R5.2 東京地方裁判所にて、国税局の処分は適法と判断
以上。争点としては、下記2つです。
1. ATMから出金をしたのは次男か
2. もし次男だとしたら不当利得返還請求権が成立するか
1. ATMから出金をしたのは次男・ジローか
現金が出金されたATMはとあるコンビニに設置されているものです。そのコンビニの店長及び従業員に、国税局の調査担当職員が、ジローの顔写真を提示して、「この人物について知っていることを教えて欲しい」と質問しました。
コンビニの店長や従業員は、「毎回のようにATMで用事を済ませた後、食料品を大量に買い、税金の支払いに係る納付書を何枚も持ってきて、多額の納付をすることもあった」と回答しました。
この店長や従業員はジローとは利害関係のない第三者であって、虚偽の発言をする動機は見当たらず、両者の具体的な申述内容が合致していることから、「ジローについての申述は正確なものと認められる」と審判所、裁判所は判断しました。
すなわち、次男・ジローの申述内容は信頼できず、ATMから出金したのはジローだと認定されたのです。