(画像はイメージです/PIXTA)

2022年12月に政府が発表した「令和5年度税制改正」において、富裕層の相続税対策として知られているいわゆるタワーマンション節税について、国税庁が評価方法の変更を検討することを打ち出しました。そもそもタワマン節税とはなんなのか、また今後はその影響がどのようになるのか、確認してみたいと思います。

「タワマン節税」とは何か

さて「タワマン節税」という言葉を聞いたことのある方も多いと思われますが、具体的にはどういうものなのでしょうか?

 

端的にいうと、タワーマンションなどの不動産を購入した場合、相続税評価額の計算において、購入価格よりも相続税評価額を大幅に引き下げることが可能となることから、その「評価額のかい離」を利用し、相続税を節税するスキームです。

 

まず、「現金1億円」の相続税評価額は「1億円」ですが、「1億円で購入した不動産」の相続税評価は、土地も建物も、購入価格より低く抑えることができるという前提があります。

 

相続税評価の場合、土地はおおむね路線価で評価され、建物は固定資産税評価額で評価されるのですが、路線価は不動産の時価のおおむね8割程度、家屋の不動産評価額はその構造にもよるのですが、5割~7割程度にて評価されるといわれています。

 

それに加え、マンションの場合は土地の権利が「敷地権」という所有者の持分により計算されることとなるため、さらに低く抑えることができます。

 

例えば3,000㎡の土地の上にあるマンションに、同じ広さ面積で300世帯入っている場合、一世帯あたりの敷地権の持ち分はわずか10㎡として評価されるため、相続税評価額を大幅に抑えられるという仕組みです。

 

タワーマンションを相続税評価する場合、おおむね購入価格の3割程度の評価になるといわれています。1億円のタワーマンションを購入した場合、その相続税の評価額は3,000万円程度まで減額され、評価されることとなります。これを借入金で購入した場合には、相続税評価額にして7,000万円ほど資産が圧縮される仕組みです。

最高裁まで争った「タワマン裁判」のゆくえ

令和4年4月19日、上記の節税スキームの利用により最高裁まで争った、いわゆる「タワマン裁判」の判決があり、国側が勝訴しました。

 

タワマン節税はあくまで合法的なのですが、納税者がこのスキームにより、借入金で14億円のタワマンを購入し、相続税評価額0円にて申告したところ、国税当局は、これを税逃れ目的の行為とみなし、土地を不動産鑑定による実勢価格として税額を更正しました。

 

これは、税額の軽減効果が著しく場合に適用される財産評価基本通達6項(いわゆる総則6項)「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の評価は、国税庁長官の指示を受けて評価する」の規定が適用されたものです。

 

「総則6項」は評価ルール全体における例外規定といわれ、明確な規定はないが行き過ぎた節税の場合、この規定により課税するという規定です。

 

しかし、とても曖昧な書き方であり、この項目を適用すれば国税当局の言い分が通るという規定ともいえるため、批判も多いのです。租税法律主義に反しているともいえるため、タワマン節税に対し、明確な条文を作って封じ込めようというのが今回の動きともいえるでしょう。

 

実は2017年の税制改正において、タワーマンションについての改正がありました。このときは固定資産税についての改正で、「価値の高い高層階と低い低層階で、固定資産税額が同じなのはおかしい」との声を受け、上層階になるにつれ固定資産税の負担が上がるように定められました。ただし、メインの節税法であるタワーマンションの相続税評価には改正は行われませんでした。

「タワマン節税」の実態と問題点

節税面で有利と思われがちなタワマン節税ですが、注意点もあります。

 

マンションは市況により値動きがあるため、まず、資産価値が落ちない物件を選ぶことが大切です。立地が良い、駅から近いなど、財産として利用価値が高いもの、売却しやすいものなどを選んで購入する必要があります。

 

節税ばかりに気を取られてしまうと、途中で物件を売却するような事態になったときに、購入した金額より値下がりしていて損失になる場合があるため注意が必要です。また、今後の税制改正によっては、従来通りの手法が使えなくなる可能性もあります。

 

また、タワマン節税の問題として、相続税の税負担への不公平感があります。

 

タワーマンションの高層階の住戸の市場価格は、低層階の住戸よりも著しく高いにもかかわらず、相続税評価がそれほど高くないため、同じタワーマンションの低層階のみならず、ほかの建物と比べても著しく低い評価になるため不公平である、という点です。

 

そしてもうひとつ、富裕層が相続税対策のためだけに利用している点があります。

 

そもそも、居住用建物であることから相続税の評価額が低く抑えられているのに、投資目的や相続税対策につかわれていることが、今回の評価方法の検討が開始される理由といえるでしょう。

今後の評価方法はどうなる?

では、実際の今後のタワーマンションの評価方法の改正はどうなるのでしょうか。

 

以前から、マンション評価に対する時価との相続税評価額の乖離の問題はありました。

 

しかし長期的に見た場合、マンションは老朽化や建替え・大規模修繕の問題もあり、どのくらい資産価値が維持できるのか不透明な部分もあります。また、敷地権は共有持ち分でもあるため、現在の評価方法でもよいのではないかという意見もあります。

 

具体的に、どのように評価を変更するかは難しい問題でしょう。ただし、都心部などでは投資目的で行き過ぎた節税が行われているのも事実です。20階以上のマンション(タワマン)など一部マンションについてのみ、相続税評価額の方法を変更するかどうか、今後はこの評価方法の検討のゆくえについて要注目です。

 

 

宮路 幸人
税理士・CFP 多賀谷会計事務所

※本連載は、NTTファイナンス株式会社の楽クラライフノートから転載したものです。

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