75歳女性、自転車でしまなみ海道走破…「人工膝関節置換術」が導いた生き方の変化【専門医が解説】

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75歳女性、自転車でしまなみ海道走破…「人工膝関節置換術」が導いた生き方の変化【専門医が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

どれだけ痛みやしびれで日常生活が困難であっても、膝や股関節など、体の動きに重要な関節にメスを入れたり、人工物を入れたりすることに躊躇する人もいるでしょう。しかし、それらの治療を経て、元気に日常生活を謳歌している人もいます。今回は、実際に人工膝関節置換術を行い、変形性膝関節症を克服した75歳女性の事例について、世田谷人工関節・脊椎クリニックの塗山正宏先生が解説します。

“新国民病”の「変形性膝関節症」

現在、日本では自覚症状がない人も含めれば、約3,000万人もの方が変形性膝関節症を発症しているといわれています。

 

特に女性は男性よりも発症率が高く、「膝が曲がらなくて歩くのが億劫になった」「正座ができなくなった」など、日常生活に不便を感じている人も少なくありません。

 

そんな変形性膝関節症を根治する手段として注目を集めているのが、「人工膝関節置換術」です。

 

「人工膝関節置換術」って? 

人工膝関節置換術とは、その名の通り、関節を人工のものに置き換える手術のこと。変形性膝関節症が末期まで進み、膝の変形が激しい人に対して推奨される治療法です。

 

すり減って傷んだ軟骨や骨を人工膝関節の形に合わせて薄く削り、金属やポリエチレンなどでできた人工膝関節を自分の骨の上にしっかりと固定します。

 

こうすることで、O脚やX脚など変形してしまった脚の形を確実に矯正することができ、痛みを軽減できる効果が高いというメリットがあります。

「大好きだった自転車に乗れない」75歳女性Aさん

今回ご紹介するのは、75歳女性の患者Aさんです。自転車が大好きで、どこへ行くにも自転車で出かけていましたが、いつしか右膝が曲がらなくなり、ペダルをこぐことができなくなってしまいました。

 

やがて、左足で自転車をこぎ、右足はペダルに添えるだけ、という不自然な方法でしか自転車に乗ることができなくなり、アンバランスな姿勢のため、背中にも痛みが生じるようになりました。

 

はじめは自宅近くの整形外科で、痛みの緩和を目的にヒアルロン酸の注射をしていましたが、根本的な解決にはいたらなかったそうです。

 

そんなとき、当院に来院されました。初診は2022年12月のこと。X線やCT、MRIなどの検査をしたところ、筋肉に損傷はなく、膝関節だけの問題であることが判明しました。

 

通常は画像診断のほか、膝の動きや可動域などを見て治療法を決定しますが、この患者さんの場合、変形が重度であるのに加えて、右膝を伸ばし切ることができず、マイナス20度くらいの状態で固まっていました。そのため、筆者は「末期の変形性膝関節症」と診断しました。根治するには人工膝関節置換術が最適であると伝えました。

 

膝関節の内側(右側)の軟骨が摩耗し、すり減っている状態
[図表1]術前のAさんの膝の様子 膝関節の内側(右側)の軟骨が摩耗し、すり減っている状態

 

「やりたいことが全部できる」…筆者の言葉で手術を決意

筆者はAさんに、重度の変形性膝関節症であり、完全に治すには人工膝関節置換術を行う必要があることを伝えました。

 

Aさんに当時の心境を改めて伺うと、

 

「先生から『膝が治ったら、なにをやりたいですか』と聞かれ、膝の痛みをなくして、自転車に乗って自由に走れるようになりたい。スポーツも大好きだから、もっと体を動かしたい。そうお話したのを覚えています。

 

すると先生は即座に、『全部できるようになりますよ』と言ってくださったんです。その一言が決め手になり、手術を受けることを決意しました」

 

と話してくれました。

 

手術と聞いてためらう患者さんが多いのも当然です。手術後にはリハビリも必要ですし、術後の痛みについて不安を感じる人も多いでしょう。すぐに運動機能が回復するわけではないため、完全に治るまではまだ不便が続くかもしれません。

 

しかしAさんの場合、「手術をすることの不安」よりも、「手術後、やりたいことに対する意欲」のほうが勝っていて、この気持ちが手術への強力なモチベーションになりました。その日は即決せず、家族と手術について相談し、次回の診察の際に手術を決断しました。

 

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