「心不全=お年寄りの病気」ではない
「心不全」と聞くとお年寄りが亡くなる直前にかかる病気で、当面自分とは関係ないだろうと思われているかもしれません。
しかし、心不全は皆さんのもっと身近に潜んでいる病気です。しかも、起こり方によってはゆっくりゆっくり進行するため、気がついたときにはすでに進行していて薬がなかなか効かない……という状況に陥っている患者さんもしばしば見かけます。
超高齢社会である我が国では心不全患者数が非常に多く、推計患者数は100万人を超えています。人口自体は減少傾向に入っているにもかかわらず、これからも当面心不全患者数は増え続ける見込みです。
心臓関連のもっとも大きな学会のひとつである日本循環器学会は、「心不全パンデミック」というショッキングな言葉を用いて警鐘を鳴らしており、またこうした危機的状況に対して2018年12月には「脳卒中・循環器病対策基本法」という法律も制定され、各地域で対策が練られています。
心不全のサインかも?「浮腫」と「息切れ」に要注意
心不全にはさまざまな発症原因がありますが、なんらかの心不全にかかわる「危険因子」を持っていたのに放置していて発症した、という心不全患者さんが少なくありません。
こうしたケースは本来予防が可能ですので、本記事ではその危険因子のなかでも頻度の高い「高血圧」「糖尿病」「心房細動」について解説していきます。その前に、心不全初期に起こる身体のサイン(「心不全徴候」といいます)を見ておきましょう。
よく知られた「心不全徴候」として、「浮腫(いわゆる「むくみ」)」があります。身体がむくむ原因は多数あるため、必ずしも「むくみ=心不全」ではありませんが、重要な心不全徴候のひとつですので注意が必要です。
浮腫が出やすい部位としては、足や下腿(膝から下)が知られています。心臓の不調により静脈血のくみ上げが悪くなり、末梢に水分がうっ滞してしまうことや、腎臓への血流低下により腎臓が尿量を減らしてしまうことなどが関与して浮腫が起こります。
また、同様の理由から肺にも水がたまりやすくなります。肺から血液をくみ上げるのが心臓の左側の部屋(「左心系」といいます)の仕事だからです。
肺に水がたまると肺は十分に拡がらなくなるため運動時息切れが生じますが、これもゆっくり進行すると身体が慣れてしまうため、「入院したときにはすでに1Lも水がたまっていた」という患者さんも珍しくありません。
またこうした患者さんの特徴として、日中はなんともないのに、夜寝ようと横になると苦しくなる「起坐呼吸(きざこきゅう)」という症状があります。これは日中には身体を起こしているので余分な水分が下半身側に逃げていますが、横になると重力の関係で水分が肺のほうに一気に戻ってきてしまうために起こる現象です。
さらに左心系の不調が進行すると、今度はいよいよ全身に送り出す血液の量が減ってきますので、血流不足による強い息切れや、血液検査上の腎機能障害が目立ってきます。
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