現行法「3年以内贈与財産の加算と税額控除」とは?
まず、相続税の基本的構造について説明したい。相続税は、相続発生時点における、被相続人(亡くなった方)の財産の総額を、その時点の価値に基づいて把握し、これに基礎控除や法定相続人の数、各種控除等を考慮して計算する。ただ相続税の思考として、「操作」による「税負担からの逃げ」を嫌う。その具現化した制度のひとつが、現行法の「3年以内贈与財産の加算と税額控除」である。
たとえば、12月31日に「あと数日、命が持つか」という状態の親御さんがいたとしよう。その人は借り家住まいで不動産は持っていないものの、葬儀費用控除後の現金を7,100万円持っていてほかの財産・債務はなかったとする。法定相続人は5人の子供と仮定する。
この親御さんが亡くなった場合の相続税の基礎控除は法定相続人が5人であるため、6,000万円。これを抜いた1,100万円が相続財産となり、仮に5人均等に相続したとすると、1人220万円を受け取ることになる。相続税は1人につき税率が10%のため、相続税は各種控除がなければ1人22万円となる。相続人全員の相続税額の合計は110万円だ。
「3年以内贈与財産の加算と税額控除」ない場合に起こり得る税負担の逃げ道
ところが、仮に「3年以内贈与財産の加算と税額控除」の制度がない世界線において、「12月31日に5人の子に110万円を贈与」し、さらに「1月1日にも5人の子に110万円を贈与」し、1月2日に亡くなったとしよう。この場合、贈与税は年間110万円まで非課税であるから、12月31日や1月1日に贈与した分の税額は贈与税は0円で親御さんから5人の子供1人につき220万円の財産が移ったこととなる。
加えて、220万円×5人→1,100万円であるから、贈与をしていなかったら相続財産として扱われていたはずの1,100万円が消滅したため、相続税もかからない……という形になる。しかし、これでは駆け込み贈与による操作で税負担を変えられることとなり、適切な課税の阻害となるため、不公平である。
そこで、このような「直前の駆け込み贈与に伴う相続税の回避」という不都合を阻止するため、「相続発生前3年以内に被相続人から相続人へ贈与した財産」は、贈与がなかったものと扱って、その贈与した財産を相続税の計算に含めることとした。ただ、そのままだと相続税の計算では無効扱いとされた贈与税は払い過ぎになる。そのため、今回の相続税額から払い過ぎていた贈与税の税額を控除して調整するとこともなされる。これが「3年以内贈与財産の加算と税額控除」である。
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