(※写真はイメージです/PIXTA)

既婚者と交際してしまい、相手の配偶者から不倫慰謝料を請求されてしまった…。騙された側であっても支払わなくてはいけないのでしょうか? 不倫慰謝料の請求が認められる条件や、支払わなくてはいけないケース・支払わなくていいケースの違いを見ていきましょう。松本理平弁護士(青山北町法律事務所)が、実際のトラブル事例を基に解説します。

【事例】「不倫慰謝料300万円」を請求された女性たち

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■事例①:既婚隠しのイケメンに騙されたA子さん

A子さんは、そろそろ結婚しないと焦っていたところ、マッチングアプリで男性と知り合ったところ、俳優に似ているイケメンのB男さんの写真を見て一目ぼれした。A子さんが使っているアプリは独身でないと登録できない規約で、B男さんも独身とプロフィールに書いていた。A子さんとB男さんは、マッチングして、トントン拍子で交際に発展し、男女の関係にもなった。

 

交際して半年ほどたった頃、B男さんの妻と名乗る女性C子さんから不貞慰謝料を300万円請求する旨の内容証明が届いた。A子さんはB男さんを問い詰めたところ、B男さんはC子さんに詰められて自身が不貞していることを自白して録音も取られたと告白した。

 

■事例②:「今の妻とは離婚するから…」。イケおじと交際したD子さん

容姿端麗なD子さんは、経営者の知人の男性に気に入られ、経営者が集まるイベントによく参加していた。D子さんは、そこで知り合う男性に高級な食事をおごってもらったりしていたが、既婚者の男性がほとんどであったので、特段深い関係になることはなかった。ただ、そのイベントきっかけで知り合い、何度か食事に行った既婚者のE男さんから、「自分と妻は、うまくいっておらず、いずれ離婚をする」といわれて交際を申し込まれた。

 

D子さんも、渋くてイケてる大人の雰囲気のあるE男さんにまんざらでもなかったので、この申し入れを受け入れ、2人の交際が始まった。交際から2ヵ月ほどたった頃、E男さんの妻のF子さんからレターパックが届き、不貞慰謝料300万円と、探偵費用100万円を請求する旨書かれた手紙と、2人がラブホテルに入る様子が映った探偵資料の一部の写真が同封されていた。なお、同資料に映る男性の左手薬指には指輪がはめられていた。

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※実際に存在する事案を組み合わせ、個人情報等が特定されない形で改変しております。

解説:(1)不貞慰謝料請求が認められる条件

不貞慰謝料の請求が裁判所に認められるためには、ざっくりと

①不貞行為があったこと

②不貞行為をしていることについて故意・過失があったこと

③夫婦の関係が破綻していないこと

④相手の氏名・住所

が必要です。

 

①は、実務上一般的に、肉体関係をもって不貞行為と考えます。たとえば、探偵をつけて、路上で熱く接吻したり、仲睦まじくデートをしている様子をいくら撮ったとしても、訴訟上では意味のない証拠となります。肉体関係がわかるものは、一般的にはホテルやお互いの家への出入り、LINEのやり取り、本人たちが残した動画や写真、本人の自白などになります。これは、慰謝料を請求する側に立証の責任があります。

 

②については、不貞をしていることについて認識していた、確認すべき状況だったのに確認しなかったことを言います。すなわち、相手を既婚者と知っていた、待ち受け画面が子供の画像だったのに確認しなかったなどの事情が必要になります。これも、慰謝料を請求する側に立証の責任があります。一般的にはLINEや同じ職場であったことなどから立証をすることになります。

 

③については、慰謝料請求時に家庭が円満であったことが必要になりますが、一般的には別居や離婚協議の事実関係がなければ夫婦関係は破綻していないとされがちです。この夫婦関係が破綻しているかどうかについては、慰謝料を請求された側が、夫婦関係が破綻していることを立証しなければなりません。

 

④は、法律上の条件ではないのですが、内容証明を送ったり訴訟を起こしたりするためには相手の住所がないといけないので、事実上必須になります。弁護士に依頼するにしても、氏名と電話番号や過去の住所など、一定の情報がわからないと調査ができないので注意が必要です。

解説:(2)不貞慰謝料の相場

不貞慰謝料請求の相場は、あくまで目安になりますが、不貞により離婚する場合は150万~200万円、離婚しない場合は50万円~100万円程度に収まる傾向にあります。不貞期間の長さ、不貞内容、婚姻期間の長さなどにより金額は変動します。

 

実務上、そもそも配偶者の不貞の相手側への慰謝料請求については認めるべきではないという学説が強く、その影響を受けてか、不貞相手に対する慰謝料の金額の裁判所の認定額は年々少なくなってきていると感じています。

解説:(3) A子さんは慰謝料を支払うことになるのか

A子さんは、慰謝料を支払う必要はないでしょう。上記の通り、不貞慰謝料請求のためには、A子さんがB男さんを既婚者と知っていたことが必要ですが、C子さんがこれを立証しないといけません。上記のような場合、B男さんの録音だけではA子さんが既婚者と知っていたことまでは立証できないので、A子さんは不用意に不貞を謝罪するというような対応はしないほうがいいでしょう。

 

ただ、A子さんがその後もB男さんと関係を持ち続け、再度、B男さんの自白などによりC子さんから請求が来た場合には慰謝料の支払いを避けられません。

 

むしろA子さんはB男さんに損害賠償を請求できる可能性があります(⇒貞操権の侵害)

解説:(4)D子さんは慰謝料を支払うことになるのか

結論としては支払う必要がある可能性が高いです。

 

F子さんの資料は、不貞の証拠として十分なものです。また、不貞の日にE男さんは、左手薬指に指輪をつけているので、D子さんがE男さんを既婚者と知らなかったと言い逃れをすることも難しい状況です。

 

しかし、D子さんはE男さんから、夫婦関係は離婚寸前という旨の話をされていますが、このような場合も支払いの必要はあるのでしょうか。結論からいうと、実務上はこのような場合に、D子さんが免責されるようなことは基本的にありません。E男さんの言葉を軽信したことに落ち度があるなどの形で、裁判所はD子さんの反論を認めてくれないことがほとんどです。

 

では、D子さんはいくらF子さんに支払いをしないといけないのでしょうか。今回は不貞の回数は1回しか立証されない可能性が高いので、慰謝料の金額は、離婚する場合150は万円程度、離婚しない場合は50万円程度になるかと思います。訴訟前に一括で支払う代わりに減額を要求して100万円や30万円程度の支払いで済ませることも十分に考えられます。探偵費用については、一部の支払いを命じるような裁判例もありますが、基本的にはD子さんが負担する必要はないと考えていいでしょう。そのため、少なくとも訴訟前は探偵費用は支払わないというスタンスでいいかと思います。

 

また、不貞行為はひとりでできるものではありません、法律的にD子さんとE男さんが一緒にF子さんに慰謝料を支払う必要があります。そのため、D子さんは最終的にF子さんに支払った金額の半額をE男さんに請求できます。F子さんにとっては、E男さんと離婚しない場合は、結果は一緒なので、D子さんは求償権を放棄するので、半額にしろというような交渉も考えられます。

最後に

不貞慰謝料を請求されたとしても、場合により、支払いの必要性や金額はまちまちです。自分で交渉しようと思って、不用意な発言をして相手に証拠を与えてしまうことも多々あります。まずは、相手に証拠を出すよう求める、離婚の有無について確認をする(書面に残す)ということは絶対にする必要があります。そして、上記2点が確認できたら、とりあえず弁護士に相談して対応を考えることをおすすめします。

 

 

松本 理平

青山北町法律事務所 弁護士

 

第一東京弁護士会所属。複数の都内法律事務所での勤務及び大手金融機関での出向を経て、青山北町法律事務所を設立。探偵会社・青山北町リサーチを主宰し、一般社団法人 探偵協会の理事も務めるなど調査業務についても対応でき、身元調査や浮気調査についても対応可能。その他、コメンテーター等にてメディア露出多数。

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