【事例】婚活アプリで出会った自称「未婚」男性に…
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①相談者である独身のA子さん(仮名)は、交際相手をマッチングアプリで探していた。A子さんが利用していたアプリは婚活用のものであり、利用規約では独身者しか登録できないようになっていて、プロフィール欄には結婚歴で未婚や離婚経験の数を記載する形に設定されており、既婚とは設定できない仕様になっていた。
②A子さんは、そのマッチングアプリでB男さんと知り合い、お互いに連絡を取り合うようになった。なお、B男さんのプロフィールの結婚歴の欄には「未婚」と記載されていた。
③A子さんはB男さんと、1ヵ月程度やり取りをしたのち、実際に会うことになった。デート当日、A子さんとB男さんは、食事をした後に、男女関係を持った。その後も、A子さんとB男さんは、数回デートをして男女関係を持った。デートのあと、A子さんとB男さんは、「セクシーだった」「いつもより早く出ちゃった」「まだA子さんの匂いがする」などのLINEのやり取りをしていた。
④その後、A子さんはSNSにてB男さんの家族写真の投稿を発見し、B男さんを問いただしたところ、B男さんはC美さんと婚姻関係にあることを渋々告白した。
⑤A子さんは、B男さんの行為が許せず、A子さんと同じような被害にあう女性をなくす目的で、B男さんとC美さんのブログやSNSのアカウントのページ、名刺の画像やLINEの上記部分のスクリーンショットを添えて「独身詐欺男」「ヤリ逃げ」「♯結婚詐欺」とSNS上に投稿した。
⑥ その後、A子さんのもとに、B男さんとC美さんから名誉棄損で慰謝料を支払えという訴状が届いたので、A子さんもB男さんに対して慰謝料請求の訴訟を起こした。
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※実際に存在する事案を組み合わせ、個人情報等が特定されない形で改変しております。
解説:(1)A子さんは慰謝料を請求できるのか?
結論から言うとできます。定義や法的根拠については諸説ありますが、実務一般として、A子さんは、B男さんにより、性行為を行うことを決定する自由、いわゆる「貞操権」を侵害されたとして慰謝料請求ができることとなっています。
慰謝料請求をするために最低限必要な証拠は、①相手が既婚者であることについての資料、②相手の正確な連絡先、③相手が既婚者と偽っていたこと、④肉体関係があったことについての証拠になります。
①や②はLINEなどで、さりげなく聞いておく必要があります。③については、アプリの規約や相手のプロフィールのスクリーンショットを残しておくことで集められます。④についても、LINEなどのやり取りになりますが、男性と男女関係になった場合には、男女関係があったことがわかる形でLINEやメールをしておくことは重要です。
上記事例も男女関係はないとB男さんは争いましたが、LINEのやり取りから肉体関係はあったと裁判上は認定されました。
解説:(2)A子さんがもらえる慰謝料はいくら?
事案によってまちまちですが、おおむね50万円~100万円と認定されることが多いです。弁護士を利用する場合は、事務所によりまちまちですが、弁護士費用などを加味すると、20万円~50万円くらいの手残りになることが多いかと思います。
慰謝料の金額に一番大きく影響するのが、交際内容と男性の騙した内容になります。これらは意図的にコントロールできるものではないので、対策という対策はありませんが、何があったか、何をされたかはわかる形にする意味で細やかにLINEやメールのやり取りをしておく(送るだけでもしておく)ことは大切です。その他の事情としては、お互いの年齢や、嘘がめくれた後の男性の対応などがあります。
A子さんの事例では、数回のデートでも真剣な交際と認定されましたが、同じような交際内容で真剣な交際とは言えないとした裁判もあるため、裁判所によっても判断は分かれることが多いです。交際期間が長いということも一概に慰謝料を上げるだけの事情ではなく、長く交際していたのに一度も相手の家や旅行に行っていないことから、嘘を疑うことができたとする裁判所もあります。
解説:(3)A子さんは名誉棄損の責任を負うのか?
責任を負うことが多いです。A子さんの事例では、C美さんが結婚コンサルをしていて、情報収集のためにB男さんをマッチングアプリに登録させて女性と会わせており、A子さんもそのことが許せずに投稿をしたというかなり特殊な事情があったので、B男さんとC美さんの請求は認められませんでした。
ただし、A子さんの行った行為は、名誉棄損であることには間違いありません。名誉棄損が免責されるのは、投稿が①公益のためであり、②かつ投稿内容が真実である(少なくともそう信じるに足る事情がある)場合になります。A子さんの場合は、上記のような特殊な事情があったために公益目的が認定されましたが、一般的には私的な憂さ晴らしのための投稿と認定されることがほとんどだと思います。
名誉棄損には民事上の責任のほか、刑事上の責任も生じるリスクがあります。そのため、安易に相手の個人情報や誹謗中傷、スクリーンショットをSNSなど多数の人が閲覧する場所に投稿することは控えたほうがいいです。
最後に
アプリを利用することで、手軽に多くの人と出会い連絡を取ることができるようになり、それに起因するトラブルも増えてきました。残念ながら、最近、弁護士がマッチングアプリを利用して既婚者と偽り女性と性的関係をもって、弁護士会から処罰されるという事案もありました。
上記のような事例だけでなく詐欺などをしようとする人もアプリに紛れ込んでおり、マッチングアプリを楽しく利用するためには自己防衛が重要になります。そのためにも最低限、相手の個人情報や結婚に関する大事なことなどについては、しっかり記録に残す癖をつけることが大事だと思います。
松本 理平
青山北町法律事務所 弁護士
第一東京弁護士会所属。複数の都内法律事務所での勤務及び大手金融機関での出向を経て、青山北町法律事務所を設立。探偵会社・青山北町リサーチを主宰し、一般社団法人 探偵協会の理事も務めるなど調査業務についても対応でき、身元調査や浮気調査についても対応可能。その他、コメンテーター等にてメディア露出多数。