母乳だけでは足りない栄養は?
母乳に不足している栄養としてよく言われているのが、鉄分、ビタミンD、ビタミンKです。このうちビタミンKは産後すぐにケイツーシロップを飲むことで補えます。ビタミンDに関しては、日光に当たることで、体内で合成できるので日光浴をおすすめします。
鉄分については、多くの赤ちゃんが体内に貯蓄した状態で産まれるので、生後しばらくは母乳やミルクで得られる量で問題はありません。
ところが6ヵ月頃になると蓄えていた分では、鉄分が不足するようになります。同じく6ヵ月頃からは母乳やミルクだけではエネルギーも足りなくなります。このことから、一般的には6ヵ月頃から離乳食を始めるとよいとされているのです。
ところでこの「離乳食」ですが、現在WHOの方では「補完食」という新しい考え方を提唱しています。これは赤ちゃんの月齢が進んで大きくなることで、さまざまな栄養やエネルギーが母乳やミルクだけでは不足するので、食事によってこの差を「補完」しましょうというもの。母乳から移行するための食事というこれまでの考え方から、母乳やミルクを続けながら成長に必要な栄養を補うための食事という考え方に変わってきています。
母親は我慢をしすぎなくていい
母乳育児を続けていると、食べるものに気を使い過ぎてしまい、それをストレスに感じている母親もいるかもしれません。たとえばよく言われるのが、乳製品やクリームたっぷりのケーキ、お餅などを食べ過ぎると乳腺が詰まるという話。実はこれには科学的根拠がないと言われています。
卵を食べ過ぎると赤ちゃんが卵アレルギーになるというのも同じ。そして母乳に鉄分が不足するからといって、母親が鉄分をたくさん摂取しても母乳の成分にはほとんど影響はありません。母乳は母親の栄養状態に左右されず、常に赤ちゃんに必要なものを出してくれる仕組みになっているのです。
ちなみに乳腺炎に関して気をつけたほうがいいのは、授乳リズムの乱れやストレスなど。たとえば帰省や旅行などによって授乳のタイミングがずれる、シートベルトで胸の辺りが長時間圧迫されて血行が悪くなる。食事よりもこのようなストレスの方が乳腺が詰まる原因にも。
食べられないものが多いので母乳育児をやめるくらいなら、そこまで気にせず食べながらでも継続するメリットの方が大きい。海外ではそのような姿勢に変わってきているようです。
母乳育児を続けることのメリット
母乳には赤ちゃんにも母親にもたくさんのメリットがあります。赤ちゃんには、感染症や肥満の予防、歯並びにも良い影響があり、母親には乳がんや子宮がん、卵巣がん、糖尿病や高血圧のリスクも下がるという研究結果が報告されています。
1歳を迎える頃や保育園に入園のタイミングで、母乳をどうしようかというご相談はたくさん寄せられます。でも中には、職場復帰をするから断乳をしなければ、と思い込んでいる方もいらっしゃいます。保育園に預けていても母乳育児を続ける方法はありますし、長い時間離れるからこそ、帰宅後の授乳が母親とお子さんの癒しの時間になるというメリットもあると思います。
それでもキッパリと断乳すると決めたなら、まずはお子さんにそのことをきちんとお話してください。ひどく泣かれてしまうから、途中で断乳をあきらめてしまう母親もいらっしゃいますが、それだとかえってお互いしんどいことに。断乳すると約束した日まで、必ず覚悟を決めてやり遂げることが大切です。具体的な方法は、助産師が個別にアドバイスをさせていただきますので、ぜひお近くの助産院にご相談ください。
子育てで迷ったら助産師を頼って
子育て中は、メディアからの情報や周りの言葉を聞いて、戸惑ったり、不安になったり、傷ついたりすることが多いもの。でも、「大変だな」と感じた時は子育てを頑張っている証拠なので、まずはご自分を褒めてあげてください。そして迷った時こそ、自分とお子さんが心地よいと感じる方を選んで過ごしてほしいですね。
助産師はお産の時だけではなく、産後何年経っても子育てをする母親をサポートします。助産院で出産をしていなくてもお話を伺いますので、ぜひ全国にいる助産師を頼ってほしいと思います。
【話を伺ったのは】
助産師hana
助産師/保健師/看護師
福島県立医科大学看護学部を卒業後、18年間助産師として、総合病院、地域助産師会、助産院、オンラインなど様々な形で妊娠出産・子育てをサポート。2022年にオンライン専門の「愛のはな助産院」開業。開業1年半で子育て講座受講者が1,000人を超える。