妻が1人で家計管理をするようになった社会的背景
妻が家計を管理し夫は一切関与しないという生活習慣は、実は比較的近代になってから始まったものです。戦後の日本では工業化が進み、都市部に労働者が集まりました。工場労働者、つまり「会社員」が急速に増えていったのです。大正時代は会社員(雇用者)の割合は労働人口の5%程度だったといわれますが、1959年には50%を超えています。都市部に集まった労働者は結婚すると核家族を形成し、戦前の家父長的家制度は次第に薄れていきます。
外で働く夫と、家事全般を担う専業主婦の妻、という役割分担が会社員を中心に広がっていったのはこの頃からです。「核家族」「住宅ローンでマイホーム」「夫はサラリーマン」「妻は家計を掌握する」というのは高度成長期の若者が憧れる最先端の生活様式でした。
しかし日本社会が成熟し女性の高学歴化・社会進出が進むと、かつての若者が憧れていた生活様式に疑問が生まれます。2022年現在、20代の夫婦では「家計をどちらか1人が管理する」スタイルは極めてまれです。家計管理の手法はそれぞれですが、夫と妻が自分の収入からお金を出し合って家計を運営しています。お互いに干渉しない「自分のお金」も持ち、それぞれが貯蓄や投資を行うというスタイルが一般的になっています。
家計管理を妻が1人で担うことの危険性
このようにかつては正常に機能していた「妻管理」の家計も、今後の社会では経済環境の変化に対応出来なくなる原因になりかねません。すでに弊社の相談会では、妻管理型の弊害が目立つようになってきました。妻管理型の世帯の相談会では、次のような現象が起こります。
夫婦で家計の課題を自覚・共有できていない
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FPに何を相談していいのか分からない
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FPが課題を指摘しても自分ごとに出来ない
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だから改善の行動が出来ない
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これまでどおり、妻の独自のやり方に依存して家計管理していく
これは経済環境が上向きの時代であればよいでしょう。しかし戦争が起こり、物価が上昇し、住宅ローンの金利上昇の気配があり、著しい円安になり、賃金は上がらないという現代社会では、もはやノーガードに近い状態といえます。金融リテラシーがいままで以上に必要な世のなかになっているからです。
「ふるさと納税が話題だからやってみる」
「扶養の範囲内で収入を抑えないと損」
「米国株式が好調らしいから投資して増やしたい」
「医療保険は不要だとYouTubeでみた」
などの雑学を根拠もなく家計に取り入れてしまい、情報に振り回されている家庭は非常に多いのです。
預金はいつまでにいくら必要、投資に回せるのは毎月いくらで、我が家の抱えるリスクはなにか、老後にはいくらの資産が必要などの対策を立案するためには、専門家への相談が必須です。しかしこれは夫と妻が協力し課題を共有していなければ、専門家になにを質問していいのかわからなくなります。