お金持ちは本当に幸せなのか?
「お金さえあれば、もっと幸せなのに」
「人生で成功すれば、もっと気持ちよく生きられるはずだ……!」
多くの人がそんな気持ちを抱いていると思う。自分も学生のころから、ずっとそう思っていた。
でも実際、どうなのだろうか。お金を持つことは、果たして幸せなのだろうか? 莫大な富があれば、人間は幸せだといい切れるのだろうか? 自分自身、メンタルクリニックで精神科医として働いている。そんななかで多くの患者さんを診察しているうちに、どことなく答えがみえてきた部分がある。
有名一流企業勤務、年収1,000万円超の44歳男性
ここで話す患者さんには、特定のモデルがいるわけではない。ただ、多くの患者さんのエピソードを、プライバシーに配慮しつつ、変更・合体してできた、架空の人物の話だと思ってほしい。
その患者は、田中健志さん。44歳。誰もが聞いたことのある一流企業に勤め、出世を重ねて、現在は年収は1,000万円を超えていた。日本人のうち上位5%に当たる年収だ。誰もがうらやむ立場だと思う。
しかし彼は、メンタルクリニックを訪れていた。主訴は「会社にいけなくなってしまった」こと。特に入社したときは、月曜日が楽しみ……とまでは行かないが、新しく始まる一週間にワクワクしていた部分もあったそうだ。
しかしいまは、ただただ苦痛。日曜日はひたすら家にこもり、月曜日が来ないように願っているそうだ。また2ヵ月前から睡眠も取れず、食事量もどんどん減ってきていた。特に以前から映画を見るのは趣味だったそうだが、最近は映画をみても一切楽しいと思えなかった。なにより、映画配信サイトを開くことすら苦痛になってきた。
さすがにおかしいと思って、当院の門を叩いたのだ。
うつ病の具体的な治療方法
診察し、話を聞き、うつ病の尺度であるCESDなどのテストも施行。中等度のうつ状態であると判断された。治療として抗うつ剤の処方を提案。抗うつ剤はすぐに効くものではないが、だいたい2ヵ月前後を目安にゆっくりと効果を持ってくる。焦りは禁物だ。
また休職を勧めながら、同時に無理のない範囲で運動などを勧めた。その後少しずつ改善をみせ、表情にも明るさが戻ってきた。閉じかけた花が再び咲いたような雰囲気だった。
ではいったいどうして彼は、うつ病になってしまったのだろうか?
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