「新臨床研修制度」導入…経験豊富な医師が競合相手に
時は流れ、2004年に新臨床研修制度が始まり、医師免許取得後2年間は初期臨床研修医として各科目を修行する「スーパーローテート」が義務化された。
すると、初期研修医の医師としての実力は高くなる半面、大学病院の医局勢力弱体化により自分自身の医師のキャリアを自らの手で切り開くという風潮が強まり、多数の健診等のスポット医師勤務に対して、少なくともX医師より臨床経験が高い競合医師が多数参入してきた。
その結果、健診等を取り扱う企業・診療所も、より高いレベルの医師での対応が可能となり、内科等の臨床経験がほぼないX医師の応募は取り下げられる傾向となった。
勤務シフト数は2006年を境に激減し、月に3~4回入ればよく、給与も1回6~7万円と足元をみられて値下げされる始末。月収は25万円にまで減少し、崖っぷちに追いやられてしまった。
理想としていたキラキラした生活とは縁遠く、カップ麺とファーストフードが主な食事となった。
研修医として再出発を誓ったものの…2年で職を失う
生活水準を下げることに対して始めは極めて困難であったが、やむなく、高級外車を売却した。生活に困窮した2008年には、医師人材紹介会社に相談して「先生は、初期研修医以下のスキル・知識であり接遇にも難があるため、勤務をお断りされてしまいます。もう一度、やり直さないと将来厳しいですよ。」という至極まっとうなアドバイスに、頭を撃ち抜かれた。
「もういちど、しっかりやり直せば、色鮮やかな現実が手に入る」
そう誓ったX医師は33歳。フリーランス歴7年という非定型医師の願いはむなしく、履歴書を提出しても、多くの病院の診療科はほとんどが門前払い。約100件目で、地方都市の皮膚科後期研修医として門戸が開かれた。
皮膚科医としてキャリアを再開したX医師。ところが、美的センスもなくコミュニケーションに難があり、患者・スタッフのトラブルも多数。また手術などの技術はもちろん、知識や処置の技術の上達はみられなかった。
こうした状況を見かねて、2年経過した時点で皮膚科部長の女性医師はX医師に対し「あなたは、皮膚科医師としての適性はない。本来であれば専門医試験を受験する年を迎えるが、研修合格をあげられない。進路を改めるように」と一方的に宣告され、職を失うことになった。
X医師のポジションは、将来の期待がある、皮膚科専門医を希望する新規の女性医師に渡された。